糖尿病看護認定看護師
竹垰弥生さん (東京労災病院看護師・看護師歴13年目)
私はもともと呼吸器、腎代謝、糖尿病内科の病棟に勤務していたのですが、そこには糖尿病の患者さんがたくさん入院していました。呼吸器疾患の人はすぐに容態が急変するので、最初はもっぱらそちらにばかりに目が向いてしまっていたのです。
でも、気づいてみると糖尿病の患者さんの多くは入退院を繰り返しています。ですから、日頃の生活改善に目を向けた看護が必要なのではないかと考えるように なりました。そこで自分で勉強を始めてみると、それまで知らなかったことにいろいろ気づくようになったのです。そうして得た知識を伝えると、患者さんたち のほうもどんどん変わっていきます。それを見て「もっと勉強したいな」と考え、認定看護師を目指すことにしました。教育課程の授業料は自分のスキルアップ になるので自己負担しましたが、病院ではこの間を出張扱いにしてくれ、基本給は支給されました。
認定看護師の資格を取って、自分で大きく変わったことは、医師、栄養士、薬剤師などと組んだチーム医療の中で、全体を見渡す考え方ができるようになったことです。以前は看護師としての視線だけだったのに、チームの調整役として、「この患者さんには何が必要か」「何が見落とされがちなのか」といった考え方ができるようになりました。
もう1つ変わったのは、患者さんを「生活者」として見ることができるようになったことです。それまでは、糖尿病の患者さんは病院へ来て入院して治療を受けるのが当たり前、という感覚になっていて、その人が生きてきた50年、60年という人生を見ていませんでした。そのことを無視して2週間の入院生活だけで判断するということになると、やはりどうしても患者さんの思いとの間にズレが生じてしまいます。
糖尿病は慢性疾患なのでなかなか治らない病気ですが、そのため勘違いされて「贅沢病」とか「自己管理できない人の病気」というレッテルが貼られてしまいがちです。でも改善しないのは、その人に合った療養指導や生活指導ができていない私たち医療者の責任かもしれません。これまでそういうところをチームみんなで考えるところがなかったのではないかな、と気づきました。
糖尿病で入退院を繰り返したり、受診を中断してしまう患者さんの中には医療不信に陥っている方が少なくありません。医療者から厳しく食事のカロリーダウンを要求されたあげく、「どうせ『あれもだめ』『これもだめ』と言われる。医療者には話すことなどないよ」と言う人が多いのです。でも、患者さんによっては仕事など様々な理由から食事制限が上手にできないという事情もあります。また、それまで周囲の人たちにもさんざん否定され続けてきて、医療費もかかるため「家族に申し訳ない」と思い、かなり精神的に追いつめられているということがあります。私は糖尿病外来を訪れる患者さんに、いっさい「だめ」と言わないようにしています。その人がそれまでしてきたことを聞いて一緒に振り返り、認めていくことにより、患者さんの不信感が消え、治療への姿勢もコロッと変わることがあるのです。一緒に話し合って、患者さんの思いを共有できれば、それまで治療に消極的で血糖値も測ろうとしなかったけれど、「ではやってみよう」という気持ちになってもらえるわけです。
糖尿病治療において、看護師は医師と違って薬剤を処方し、その効果をみるといったことはできませんが、日常的に看護を行うことで患者さんに寄り添った細やかな対応ができます。たとえば仕事が不規則な人や、食事回数が3回取れない人にインスリン注射を打つ時間の変更や、インスリンの種類の変更を医師に提案することもあります。ある患者さんがじつは夜中に低血糖を起こしているということに気づくということもあるのです。そんなふうに医師の気がつかないことや知らないことについて、次の方法を考えるといったことも認定看護師の仕事かなと考えています。