メニュー 閉じる

統合リハへの提案 – 3

各分野で活躍する東京衛生学園リハビリテーション学科OBに統合リハヘの可能性を聞く

診療報酬改定で病院でのリハビリは脳血管、運動器、呼吸器、心大血管の四疾病領域だけが対象となり、リハビリ治療が受けられる日数の上限に枠がはめられた。リハビリを行う理学療法士も四大疾患それぞれへの専門性を求められるとともに、急性期、回復期、予防期という疾病の流れにトータルに関わることが困難になってきた。また介護施設でのリハビリや訪問リハビリなどリハビリの環境も急速に変化している。このような状況のなか、各リハビリ施設で活躍するOBを訪ねた。

加藤一人さん (株式会社PNF研究所取締役所長)

病院で受け入れられなくなった患者さんにもPNF(神経筋促通技法)でアプローチ

 


加藤一人さん

PNF ( Proprioceptive Neuromuscular Facilitation)は「固有受容性神経筋促通手技」の意味です。1940年代中ごろ、アメリカで神経生理学者や理学療法士によって研究、開発され た治療メソッドです。当初はポリオ(小児マヒ)のリハビリを対象としていたといわれます。現在ではスイスを中心に世界的な広がりを見せ、脳血管障害、脳性 マヒといった疾病が原因となる運動機能障害の治療、高齢者の介護予防対策、さらにはスポーツ選手の運動機能の向上に至るまで、広い範囲で応用されるように なりました。
PNFには「神経筋促通技法」という専門用語があります。読んで字の如しで「通りを促す」ということです。私たちの筋肉は常に脳から微弱な電流(情報)が送られてきて、その指令に従って動くと考えられます。身体が健常な状態では、この脳と各部の筋肉の間のコミュニケーション(情報交換)がスムーズに機能していますが、脳血管障害や脳性マヒといったアクシデント(疾病)に見舞われた特集 統合リハビリテーションを考えるり、さらには老化により、このコミュニケーションが正常に働かなくなり、マヒを起こしたり筋力低下をもたらすことになります。そこで筋肉や皮膚、関節などを刺激したり、負荷をかけたりストレッチを加えることにより、筋肉を動かすコミュニケーションの通りを元のようによくしようというのが促通です。
PNFの具体的な運動療法としては、マンツーマンで徒手により施術します。人体の運動パターンにより、関節の可動域を改善して柔軟性を高めたり、関節や筋肉の正しい動きを身体に覚えさせたりすることができます。
医療制度が変わったことからリハビリの患者さんは、180日で病院のベッドを追い出されるのが現実となりました。この法制下では、とにかく「歩ければよい」、「立てればよい」と最低レベルの動作で見放されてしまうわけです。さらに180日でまだ歩けない状態だと、病院では「もう歩けない」と判断してしまいがちになり、その結果「車椅子でいいでしょう」ということになります。


PNFは治療ばかりではなく、予防効果を発揮するためスポーツ選手にも取り入れる人が多い

もちろん患者さん本人は、このようなADL(日常生活動作)ベースのリハビリには満足していません。あくまでも患者さんのニーズは「自分の足で歩きたい」 ということであり、「痛みを感じずに歩きたい」「もう少し速く、遠くへ歩きたい」「上り下りもできるようになりたい」というQOL(生活の質)の向上でも あるのです。脳卒中後のリハビリの改善効果は絶対6ヶ月では判断できません。1年、2年と継続性をもって改善していく必要性があるのです。ですから、医療 制度の日数制限は今までの理学療法士が時間をかけて探っていた可能性が、半年で早々とあきらめさせられてしまうことになります。ですから最初に患者さんが 来院されたとき、私たちはカウンセリングにたっぷり時間をかけます。大切なのは「何をしたいですか」、「どこへ行きたいですか」と、患者さんの次のステッ プを聞き出します。ある患者さんの例ですが、ゴルフがとても好きで倒れられてからもうゴルフができないと嘆いていましたが、リハビリのかいがあって1ラウ ンド、コースに立てたと語ってくれ共に喜びました。リハビリは時間を区切った医療ではなく日々の向上なのです。私たち理学療法士は患者さんや家族の方々と 共に様々な問題を解決する場を共有していると思います。