小春日和
冬が来る前に新潟県入広瀬村の小さな川に入った。五味沢という所から沢伝いに、川の流を逆らいながら登って行くと、岩ばしる小さな滝に出会った。
手を結んで水を掬って飲むと、身体がヤレヤレというのがわかった。
なんの目的もなく、なんの考えもなく釣り人の後ろを付いて来ただけだったが、水の音が心地よい。
人肌ほどに温もった大岩を見つけ、寝転がっていると、トンボが来て腹の上に止まり、呼吸をすると腹も一諸に波打った。トンボも揺れを楽しんでいるかのようにじっと腹にへばりついている。どうしたものかと考えていると、気配を察したのか、飽きたのかスイットどこかに飛び去ってしまった。
ウトロウトロと微睡を楽しんでいると釣り人が戻ってきて、アケビを喰えとくれた。真一文字にパッカリと割れたその実からは薄らと甘い香りが漂い、口に頬張るとなにか遠い時の懐かしみを憶えたのだった。