春のうらら
のどかな春のうららに誘われて、水上バスで東京湾の日の出桟橋から隅田川の河口を遡って、浅草の吾妻橋まで小さな船旅をした。
最初に現れる橋が築地の勝鬨橋で、両岸には高層マンションが建ち並び江戸情緒を期待していたむきには気がそがれるのだが、新しい江戸の情緒は満喫できる。もっとも驚くことは橋桁すれすれにくぐりぬけていく航行で、そのスリルが楽しい。
橋くぐりは勝鬨橋を初めに、佃大橋、中央大橋、永代橋、隅田大橋、清洲大橋、新大橋、両国橋、蔵前橋、厩橋、駒形橋、吾妻橋と新旧の橋を交えての十二の橋が、個性的な建築美を競いあっていて眼を楽しませてくれる。
また下る曳き船やボートと出会い、立ち上がる波頭を通り抜ける度に、ざぶんざぶんと音を立てて揺れる船に身をゆだねているのもなんとも心地よい。
吾妻橋のたもとの船着き場に着いて、橋を渡ろうとすると、もうすでに陽は西に傾き始めていて、うららかな川風は凪いでしまい、橋を行き交う人々に春なお浅い風が急に襲いかかってきた。