日本の医療に大きくのしかかっている老人問題。
しかし一般での論議はまだまだ不十分だ。
21世紀の老人国家・日本に明るい将来はあるのか。
老人と医療・保険を取りあげているウェブ・サイトを追ってみた。
吉村克己(ルポライター)
改定後の医療費負担を自動計算
今年六月に閉幕した第140通常国会では高齢者問題に関わる2つの重要な法案が審議された。1つは健康保険法改正案を含む医療保険制度改革、もう1つが介護保険法案である。前者は国民への大幅な負担増という問題を抱えながらも通過成立し、後者はさまざまな課題を残し継続審議扱いとなった。
今回はまずこの2つの法案に関連したホームページを探ることから始める。
検索エンジンから入り、まず目に付いたのが「Dr.ハッシーのホームページ」。こちらのサイトには「医療保険制度の改定に反対する署名活動に御協力下さい」とある。
中身を覗くと、この保険制度の改定がいかに個人に負担を強いるものか解説されており、改定後の医療費自己負担額を計算してくれる便利なサービスを提供している。受診した診療科、支払額、内服薬の種類と数量などを入力すると改定後の料金がはじき出される。
またいくつかの典型的な受診例による試算も掲載されており、その増加額に驚いた。例えば同じ月に内科、外科、精神科、眼科の四診療科を受診した老人医療受給者が従来、月額固定で1020円の支払いで済んでいたのに対して、改定後の自己負担額は4980円にもなる。なんと五倍近くの負担が高齢者にのしかかることになるのである。
Dr.ハッシーこと橋本真也さんは群馬県の病院に勤める内科医だが、ホームページを作った動機についてこう語る。
「もともとは趣味と自己満足でスタートしたのですが、昨年末から一連の医療制度改革案に対して現場の一医師として怒りを感じ、情報をきちんと伝えることによって反対運動の一助とする目的で医療費自己負担計算機能などのページを作りました。残念ながら改革案は国会で成立しましたが、今後も医療改悪反対のページを作り続けます」
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「介護」を売る「老人医療」
さて次に介護保険関連のサイトを探ると、徳島県の老人病院に勤める医師、妹尾恭知さんのホームページ「Geriatics and Elderly care in Japan」(日本の老人医療と高齢者介護)にぶつかった。
このサイトは高齢者の医療と介護を巡る誤解や無知、そして現場の混乱と苦労を実に率直に語っており、とても参考になった。
老人医療や介護の問題を語るとき、今まで介護、医療、看護、ケアなどが混同され、建設的な議論もされずにきたために高齢者へのサービスが「魚を売る八百屋」になってしまったと妹尾さんはいう。
つまり「野菜という医療」を扱うはずの八百屋がご都合主義で「介護という魚」を売り始めたために、どちらも中途半端になってしまったというのである。
妹尾さんのホームページから「介護のページ」および「医療のページ」を開くと、医療と介護を巡るさまざまな問題が取り上げられている。妹尾さんは「直すことを忘れた手抜きの医療と、障害を直そうとする無知な介護」の矛盾を指摘し、医療過多と介護不足のアンバランスに警鐘を鳴らす。
そうした状況下で、介護保険のシステムに対しても西欧的個人主義に基づく考え方だけでなく、家族介護や地域共同体の介護も視野に入れるべきだという。
「あと3年間で、いろいろと介護保険の実施に向けて老人医療も体質の改善を要求されるでしょう。猶予は3年しかないのです。これから医療の道へ進む方たちには介護の分野でも、もっと人間的な楽しい夢のある世界が待っていることを伝えられたらよいと思っています」と妹尾さんは語っている。
介護保険に関しては同志社大学で社会福祉学を教えている小山隆さんの作成した「福祉関係者のホームページ」が詳しい。トップページから「公的介護保険について」を開くと、介護保険関連のリンクが張られている。
小山さんは自分の考えを主張するよりもホームページで賛成反対両論を集めて議論の場に育てようとしている。
小山さんはホームページ開設の動機についてこう語る。
「福祉系大学や学会などのアカデミズム系の情報発信が遅れていることが問題です。そのため個人レベルでホームページを開設して大学や学会レベルでの発信が将来、行われるのを促そうということなのです」
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痴呆症と闘う体験記に感銘
小山さんのホームページからのリンクで「痴呆性老人介護体験記」というサイトを見つけた。埼玉県在住の篠崎辰夫さんの作成したこのホームページは篠崎さんのお父さんがある日突然、ボケを発症し、大往生を遂げるまでの生々しい様子を描いた闘いの記録だ。
しかしお父さんの人徳か、作者の篠崎さんの人柄か、決して悲惨にならず、むしろユーモラスに書かれていることに感銘を覚えた。
篠崎さんは「この体験記で一番伝えたかったことは相手の立場に立った介護とやさしい気持ちです」という。まさに当事者にしか語れない言葉だろう。
「(社)呆け老人をかかえる家族の会のホームページ」にはボケに関する情報や介護相談など有用な情報が豊富に掲載されている。
ボケを防止するためには生き甲斐や老後の趣味が必要だが、(財)長寿社会開発センターの「シニアライフ情報館」では「生きがい健康づくり情報」や高齢者のためのスポーツ・文化の祭典「ねんりんピック」の情報が掲載されている。
社会福祉・医療事業団のホームページでは長寿社会福祉基金の概要が掲載されており、助成事業の一覧と実施団体がリスト化されている。興味のある活動について問い合わせてみてはどうだろうか。
またこのサイトには「全国の高齢者福祉施設・病院情報検索システム」があり、あらゆる施設の住所から概要まで調べられるので大変、便利である。
以上、紹介したサイトは高齢者問題に関するごく一部のホームページだ。今回、ネットサーフィンをして医師や関係者など個人のサイトが思った以上に充実していることに驚いた。やはり団体・組織とは情報発信にかける意気込みが違う。
今後、介護保険も含めて、行政は早急にホームページ上での豊富な情報提供と意見交換の場作りをするべきではないかと痛感した。