水ぬるむ
上野の不忍池に冬の終わりの淡い朝日が射し込むと、辺りの葦原のねぐらから一斉に水鳥たちが集まり、静まり返った水面を掻き回し始めた。それらの様を眺めていると、漆黒の頭を持つスズガモの群に混じって、少し大柄でカナールグリーンの色鮮やかな、ウミアイサの姿があった。不忍池に集まる、いずれも遠くシベリアなどから越冬しに来た渡り鳥たちだ。
もう立春も過ぎ、桜の花が咲く頃までには北へ帰って行くのだろうと、水辺で水鳥に餌を与えていた人に聞くと、ここでは決して鳥たちに北へ帰るとは言わないそうで、春には行ってらっしゃいと声を掛け、秋にはお帰りと言うのだという。