泰山を映す
泰山は山東省の大地からニョキニョキとせり出した勇壮な山である。
秦の始皇帝を始め、歴代の皇帝が「封禅」の儀式を行った神聖な山で、中国の名山中の名山として「五嶽独尊」とも呼ばれている。
高さ1524メートルの泰山の神秘性を伝える話に「実は泰山は毎年少しずつ成長しているのだ」というものがある。信憑性はともかくとしてそれほどまでに中国の人たちにとって、泰山への思い入れが強く一生のうちに1度は登りたい山だという。
その泰山の姿を美しく映しだす湖(大河水庫)が泰山の西側にあるというので訪ねた。粥店という村の外れに着くと、そこは湿地のようになっていて、老人が小さな椅子に座ってぼんやりとしている。
何をしているのかと尋ねると、ここは気の良い場所だから健康のために毎日座りにくるのだという。湖はと問うと、北の方を指して、直ぐ近くだと教えてくれた。辿り着くと湖面に優雅さを湛えた泰山が映し出されていた。その美しさに見とれていると不思議なことに、天と地の境が曖昧となってきて、神秘的な感覚に包まれた。