年に一回の人間ドッグ。行くたびに問診で医師に指摘されることが「もう少しやせてください」。
さすがに最近では暴食を控えるようになったが、さりとて運動もままならず、いっこうに体重は変わらない。
世の中こぞって、「デブは罪悪」と合唱しているように見えるが、果たして本当にそれほど悪いことなのか。
怖いリンゴ型肥満
(財)愛知県健康づくり振興事業団の運営するサイト「あいち健康プラザ」の「肥満と健康」には肥満に関する基本的な情報が分かりやすくまとめられている。
最初のページが、肥満度の判定方法として最近よく利用されているBMI(ボディ・マス・インデックス)指数を自分で計算できるコーナー。入力したら、案の定「太りぎみ」と出た。
反省もないまま、次の「体型シミュレーション」で間食の摂取カロリー計算をしてちょっとギクリとした。私の好物であるせんべい2枚、日本酒2合を毎日1年間とり続けたら、体重が23キロも増す計算だ。
2日に1度、飲み食いすれば10キロ増か。
机上の計算とはいえ侮れない。そこで、改めてこのサイトの「肥満の知識」に目を通してみた。すると肥満は統計的に短命で、糖尿病の発病率が通常より五倍も 高く、高血圧、胆石症、痛風も三倍近いことが分かった。しかも単に肥満といっても本当に怖いのは「リンゴ型」と呼ばれる上半身肥満だ。このタイプには内臓 に脂肪がつく内臓脂肪型肥満の男性が多く、糖尿病・高血圧・高脂血症を併発して、「死の四重奏」と呼ばれている。これに対して下半身が肥満する「洋ナシ型 肥満」は皮下脂肪の肥満で、女性に多い。
ということは、見た目や重さと危険な肥満とは意味が違うことになる。問題は体内にどれだけ脂肪があるかということであって、必ずしも標準体重より重いかどうかではないということになるのだろう。
そこで、キーワードとなるのが「体脂肪」である。外見や体重は正常でも実は体脂肪率の高い「隠れ肥満」も存在するらしい。
体脂肪といえば、画期的な体脂肪計を開発し、成長している企業がある。株式会社タニタである。
同社のホームページを覗いていみると、「ベストウェイトライフ」というコーナーがあった。この中の「ダイエットQ&A」がとても参考になる。なぜ肥満になるのか、どうしたら脂肪は減るのか、体脂肪とは何か、ダイエット成功のコツなどが分かりやすく書かれている。
ここで初めて気づかされたのが「基礎代謝」。極端に食事を減らすと、この基礎代謝も下がり、大食しなくても太ることになるという。逆に軽めの運動を続けれ ば、基礎代謝が上がり、自然に脂肪は減る。単なるカロリーコントロールだけではいけないのだ。このあたりにダイエットをめぐる混乱の根が潜んでいるよう だ。
このサイトでは、「危ない自己流ダイエット」というコーナーもあり、ココア、リンゴ、ゆで卵などのダイエット法の問題点や誤用を指摘している。
そもそもダ イエットとは何を目的としているのか。体重を落とすことか、体脂肪を落とすことか、身体を引き締めることか、筋肉を増強することか。「美しさ」というひど く主観的なイメージに操られて、健康に無神経なダイエット方法が多すぎるのではないだろうか。
「BioBug」という医療やフィットネスの専門家たちで構成されているグループのホームページにはその点がズバリと書かれている。
「ダイエット・エトセ トラ」というコーナーではダイエットを「食べ物の摂取量を調節することによって病気を直すための治療方法」と定義し、「脂肪と友達になろう」と訴えてい る。
つまり体脂肪には個人差、あるいは「肥満範囲」があり、誰もがモデルのように細くなることはできないのである。無理してやせるのは身体に危険であり、 その人に合った自然なやせ方をしなければならない。
このグループでは人間を全体でとらえ、各人の個性差や自然治癒力を重視して健康を維持する「バイオ・トータル・コンディショニング」という考え方に基づいて、ストレッチ、ダイエット、ウェイト・トレーニングなどの実践方法を示しているので、覗いてみてはいかがだろうか。
神奈川県に住む広沢彩さんは、ダイエットと無縁の生活をしていたが、ある日、友人から太り気味を指摘されて、自己流のダイエットを始めた。だが、体重は増える一方。そのうち、あこがれていた人からも「もう少しやせたら」といわれて、ショックを受け、さらに過激なダイエットに走ってしまった。
1日1000カロリー以下と勝手に決めて、極端な食事制限をし、3ヶ月で15キロもやせた。次第に拒食症に陥り、やせれば周囲からかわいいと見られるとい う期待が裏切られ、逆に気味悪がられるようになった。孤独が深まる中、もう少し体重を戻そうと思った瞬間から、今度は過食が始まった。怒濤のように食欲が 押し寄せ、食べては吐き、吐いては食べる生活に一転した。体重は増え始め、さらに心はぼろぼろになり、広沢さんは死も考えたという。
幸い、5年間にも及んだ泥沼のような状態から抜け出すことのできた広沢さんは自らのつらい体験をホームページに公開した。生々しい当時の日記や、同じような境遇の人への励ましの言葉が載せられている。
公開した理由について広沢さんは拒食症や過食症のような「摂食障害」は患者自身が自ら助けを求めないことも多く、周囲の理解を得られにくく、誤解を受けやすいからだという。
広沢さんは「摂食障害者の多さにびっくりしています。テレビでは過激なダイエットの特番を組むなど、ますます摂食障害者の増加に拍車をかけているような気 がします」と語る。寄せられる電子メールも「どうしたら治るか、苦しい、誰にも相談できない」という内容がほとんどだという。
こうした摂食障害者の支援をする団体がある。横浜市にある「MIMOS”A」(ミモザ)は専門のカウンセラーが相談に応じるだけでなく、引きこもりがちな患者の集う場や、社会復帰するためのアルバイトの機会も提供している。MIMOS”Aの河原さんはこう語る。
「摂食障害はとても重い慢性疾患です。拒食や過食はごく表面的なことにすぎなくて、患者たちの心の奥底では人に対する信頼感や安心感、自分を生かしていこ うとする本能的な力などが欠如しており、それこそが深刻な問題です。
重症の患者では回復には何年もかかり、将来を悲観して自殺をする人もいるほどの病気なのです」
だが世間では、甘えやわがままと誤解されているケースも多い。行政の認識も浅く、MIMOS”Aはいまだに無認可団体として、ぎりぎりの自主運営を余儀なくされている。
摂食障害はどんな人にも襲いかかる怖れがあり、まずは自分の足元や周囲から見つめ直したい。同時に他者に対して冗談にでも体型のことをいう愚かさを肝に銘じたい。