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貧しい食環境を作る親たち

相次ぐ少年犯罪。むかつき、キレる少年たち。
学級崩壊を起こす小中学校。
食事とこうした現象の間には何か関係があるのだろうか。
家族にとって、人間にとって食事がどれほど大切なものなのか、
インターネットで探 ってみた。

吉村克己 (ルポライター)

「いただきます」のない家庭

今年一月二二日、日教組の教育研究全国集会で小中学校の「学級崩壊」の実態が報告された。学級崩壊とは数人の子どもたちが授業中に席を離れたり、教室を飛び出す などの行動から始まり、その後、クラス全体に波及して授業が成り立たなくなる現象 をいう。
兵庫県教組支部に設置された「学校からのSOS」という研究委員会が昨年三月に実施したアンケート調査では学級崩壊を「経験した、している」、「いつ起きてもおかしくない、不安がある」との回答が約八五%に達した。現場の教師たちは苦悩と無力感 を抱えてなす術もない。
また今年一月二八日で栃木県の市立黒磯北中学校女性教諭が一年生の男子生徒に刺 殺されてちょうど一年が経つ。
その後、ナイフの購入規制や少年法の見直しなどが進んでいるが、果たして根本の原因は究明されているのだろうか。
じっとしていられない、むかつく、キレる子どもたちを駆り立てているものは何なのだろうか。その一つの原因として食事の問題を指摘する人も多い。札幌市の小学校の栄養士である金井智恵さんは「こちら小学校の給食室です!」というホームページで学校給食の紹介をしている。
金井さんは子どもたちと食環境の変化の問題をこう語る。
「食事自体にはとくに問題を感じませんが、それを食べる食環境の変化は荒れる学校の何か一因になっているのではないかと思います。家族が揃うまでお腹をすかしながら待って全員揃ったところで『いただきます』をする、などという家庭は今はないのではないでしょうか。家の食事も子ども中心。子どもの嫌いな物は食卓には出ないようです。嫌いなものを頑張って食べるなどということを知らない子どもたち。いつでもどこでも好きな物ばかり食べている子どもたち。給食のひじきを見て『先生ごみが入っている』という子どもたち。テレビを見ながら食べていて、何を食べたのか聞かれても覚えていない子どもたち。そんな環境を作っているのは親です。どこかに歪みが出てくるのではないでしょうか」
その意味では栄養士が栄養やバランスを考えて作る学校給食は貴重な食の場である。金井さんはホームページを作った理由として「当時、給食廃止論から賛成論までさまざまな意見が飛び交っていました。しかし、廃止論を盛んに唱えている人の中には今の給食ではなく、昔の給食のイメージのままで話をされている人がいるように感じました」という。
いまの給食は脱脂粉乳にまずいパンという時代とはほど遠く、味も食材も格段に向上している。「こちら小学校の給食室です!」には献立や給食の歴史などが掲載されているので、給食廃止論者には一度、覗いてもらいたい。

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食生活を軽視する親たち

「快適食生活研究所」というホームページを作った栄養士の若杉麻理さんも子どもたちの食生活の問題をこう指摘する。「ある調査によると『キレる、むかつく』小中学生は家族と一緒ではなく一人で食事をすることが多く、その食事内容もレンジでチンする惣菜や弁当、あるいは自分の好きなものだけ食べていることが多いという結果が出ています。栄養の偏りもさることながら、重大なのは本来食事時に交わされるはずの団らんの会話がないこと。これに加えて勉強、運動不足、いじめなどからストレスをため込む子どもたちがキレる、むかつくという不健康行為に走るのは当然のことでしょう」
若杉さんはこの”孤食“の背景にある母親の社会進出や子どもたちの塾通い、会社人間の父親の子育て無関心などいろいろな社会的要因を認めつつも、「子どもたちの心身の健康を考えるなら一番身近な親たちが生きていく上でのベースになっている食事のありかたをもっともっと真剣に考えてほしい」と語る。
食事を単なる”燃料補給“と考えるような貧しい親たちにこそ問題がありそうだ。「快適食生活研究所」には栄養学の基礎知識から旬の食べ物(栄養と保存方法、調理法)、体調不良のときの食べ物、健康にいい食べ物、食に対するQ&Aなど食生活に役立つ情報がふんだんに盛り込まれている。仕事に追われる親たちにも一度、見てもらいたい。
若杉さんは食をないがしろにはしないとともにヘルシーさにこだわりすぎるのもよくないという。
「食事にはどれも一長一短があり、朝は洋食、昼は中華、夜は和食といったように和洋中を組み合わせた食事が一番よいと思います。いいものはとり入れ、悪いものは除き、目指すは心身ともに健康な身体です」
乳幼児の頃から子どもの食事には気をつけたいという親には「こどもの食事研究室」というホームページが役に立つ。このサイトは全国の保育園で働く調理員のレベルアップを目的に作られたが、保育所給食に関するセミナー報告や献立、文献データ、アレルギー情報などが掲載されている。
家族みんなで食生活を考えようと、京都在住の管理栄養士、大倉節子さんが開設したのが「バランス・ダイエット」というホームページ。公的機関の栄養調査や食品の栄養価などバランス食に関するさまざまな基礎的情報が網羅されている。
管理栄養士の嶋本菜穂子さんが作った「菜の花ホームページ」は日本人本来の食生活を追求した面白いサイト。
「本当の日本人の食事」と題して、人間の食性の起源をなんと原猿類から調べている。驚いたのはかつての日本人が食べていた米の量。昭和10年の農村の例が詳しく載っているが、農繁期でどんぶり飯1日20杯。ドイツ人医師ベルツが当時の日本人の体力に驚嘆したらしい。いまの日本人が喧嘩してもかなわないだろう。このほか、みそ汁の効能も詳しく解説してある。
我々は肉食=スタミナと考えやすいが、案外、昔の日本人の食生活に健康の秘密が隠されているかもしれない。いずれにしろイメージで考えずに若杉さんのいうようにいいところを取り入れ、悪いところを取り除く食生活を心がけたいものだ。