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さらなる論議が必要な介護保険

2000年度からの新しい介護システムを目指した介護保険法案が成立した。
保険方式の介護体制作りを歓迎する声がある一方、
多くの問題点も指摘されている。
我々の誰もが関係するこの問題がインターネット上ではどのように議論されているかを探った。

吉村克己(ルポライター)

細部は政省令まかせの法案

昨年12月、ついに介護保険法案が可決された。介護を必要とする高齢者の人口が増え続ける中、主に家族が介護する現体制ではいずれ破綻することは誰もが分かっている。
そこで保険方式による公的介護サービスの提供を目的として法案作りが始まった。途中、さまざまな議論が起こり、充分に議論が尽くされたとはいえないが、「とにかく制度を導入する方が先であり細部は後で詰めるべきだ」という声が勝って法案は成立した。

現在の介護保険法案の概要についてまずは厚生省の説明を確認しておこう。同省のホームページで「介護保険制度案について」を覗いてみると、創設の狙いから法案のポイント・仕組み、Q&Aなどが掲載されている。
それによると被保険者は40歳以上で、サービスの受給者は65歳以上。ただし40~64歳までの間に脳卒中や初老期痴呆に伴って介護が必要になれば保険給付が受けられる。
するとそれ以外の病気や交通事故などによって介護が必要になっても介護保険は適用されないということなのか……この説明だけではよく分からない。
また保険料は初年度が毎月2400円、2010年には3600円になるそうだが、あくまでも”平成7年度価格“なので、実際にはもっと上がる可能性もあるようだ。
また低所得者に過重な負担とならないよう、所得段階に応じた定額保険料制度を導入することになっているようだが、その額がどれくらいになるかは市町村の条例で設定するらしい。

厚生省のホームページは背景や調査結果などは詳しく書いてあるのだが、導入後、何がどうなるということはさっぱり分からない。もっと具体例を挙げて説明しなければ誰も理解できないのではないか。
そこでもっと分かりやすく解説されているサイトを探すと、茨城県議会議員である井出よしひろさんの「ホットラインひたち」を見つけた。このサイトの『介護保険を考える』というコーナーはよく情報が整理されいる。
『提供されるサービス、単価と負担』では提供される主な介護サービスの内容と単価の推計が一覧表になっている。例えば身体介護をしてくれるホームヘルパーは1回1時間で3130円、デイサービスは1回6062円、特別養護老人ホームが一ヵ月29万 3000円など。この一割が受給者の個人負担になるのだ。

しかも介護サービスを受けるには要介護度認定が必要となり、市町村の面接調査で6段階に振り分けられる。それによって6万円から29万円まで給付額は変わってくるが、この認定方法の精度が疑問視されている。井出さんは自らの見解として以下のような5つの問題点を指摘している。
運営主体となる自治体の地域間格差、在宅サービスや施設整備目標のあいまいさ、要介護認定の難しさ、現金給付の検討(現在はサービスの給付のみ)、保険料額と被保険者年齢の問題。

ホームページを開設した動機について井出さんはこう語る。
「今回の法案の成立過程は、あまりにも国民に情報が少ない状態で審議が続けられてきました。そのうえ、法案には保険料率が明記されないなど、政省令にゆだねる事項が300以上もあると言われています。これは言い換えれば、国民の意見が今後の制度の具体化に反映されず、厚生省の思いのままに制度が具体化される危険性があるということです。私は県議会議員という立場上、一般の皆さんよりはより早く、より詳しい情報を得られます。その情報を公開することは議員としての責任の一つであると考え、ホームページを公開しました」
国民が監視して、この制度をいいものに育てていかなければ、結局は我々が被害を受けることになるだろう。

市民参加で介護制度を育てる

まさに介護保険法案を改善し、育てていこうとするグループがある。「介護の社会化を進める一万人市民委員会」だ。
樋口恵子東京家政大学教授と堀田力さわやか福祉財団理事長を代表に96年に設立され、法案の審議に当たっては自ら「3つの修正と5つの提案」を掲げて各政党に働きかけた。

市民主体の介護保険の運営やサービス選択の権利、環境の整備などを訴えた結果、「市民参画」については明文修正が盛り込まれ、法案の付帯決議にもいくつかの主張が取り入れられた。その間の経緯や具体的内容についてはホームページに詳しく掲載されている。
同会運営委員の川崎敦子さんは「介護保険法案の捉え方がマスコミに全然理解されていなかった。その結果、多くの市民にも情報が伝わってない」と感じ、ホームページを作ったという。

「マスコミの報道の多くは的外れで、未来へのビジョンがない。夢がない。介護保険が作る未来はバラ色だなんて思っていませんが、私たちに必要な制度(地域ケアシステム)を私たち市民が参画して作り上げたい。そうしないと介護保険は絵に描いた餅に終わってしまうのです」と川崎さんは個人の主体的な参加を呼びかける。
一万人市民委員会が市民の集まりならば、「公的介護保険を考えるフォーラム」は地域の福祉や医療に関わってきた専門家たちが結成したグループである。このサイトではサービスを提供する側から見た公的介護保険の問題点が指摘されており、『介護保険Q&A』も具体的で分かりやすい。
専門家のサイトということでは「やまのい高齢社会研究所」所長の山井和則さんの作っている「やまのいくらぶ」が役に立つ。

山井さんは『体験ルポ 世界の高齢者福祉』(岩波新書)を著し、スウェーデンで福祉の研究をした高齢者福祉の専門家。具体的な事例を元に介護保険導入後どうなるかを分かりやすく解説している。またドイツの公的介護保険との比較が興味深い。
在宅介護の七~八割が介護サービスではなく、現金給付を受けているというドイツの現状を知ると、日本の介護保険も現金給付を検討する必要があるのではないかと感じた。いずれにしても介護保険を巡る論議はこれから本格化する必要があるのではないだろうか。

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