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東日本大震災の二次災害=放射能汚染への警戒を呼び掛け

東日本大震災の在宅医療への影響について

東日本大震災は、直接被害を受けられた方々以外に、今まで在宅医療を受けていた方々にも大きな影響が出ています。この方々を現場で支えている「仙台往診クリニック」川島孝一郎院長の活動の報告です。

在宅医療は2次災害のケアも必要

 


 24時間365日診療体制を敷く在宅医療専門の仙台往診クリニックは、所在地から半径30Km以内を診療エリアとしており、現在の患者数はおよそ420 名。今回の東日本大震災の津波で、在宅酸素の治療を受けていた中年の患者さんが犠牲になった。また、医療スタッフの中で3人が津波で自宅を失い、2人が肉 親を亡くしているなどスタッフは被災者でもある。そのような状況の中で川島孝一郎院長はライフラインなど日常生活手段を断たれた患者さんや家族の二次災害 を防ぐための取り組みを進めてきた。

 

 「私たちは在宅の患者さんに対して、車のシガーソケットから電力を供給したり、介護するご家族の交通手段を確保するためにガソリンを届けたりする作業にも取り組みました。しかし、残念ながら人工呼吸器をつけた患者さん45人のうち19人は停電のために自宅で治療を続けることができず、病院へ一時入院してもらいました。ただ、その後状況が改善するとともに、ほとんどの患者さんが自宅での療養に戻っていただいています」とホッと安心する間も無く予断を許さない状況が続く。


 仙台往診クリニックでは開設当初から医療者は在宅患者を訪問するのに白衣を着ていかない方針を貫いてきた。「安心して自宅で過ごしたい」と願う患者さん たちに、「白衣姿の医療者」が出入りするという心理負担をかけたくなかったため。しかし、「患者さんに安らかに自宅で過ごしてもらいたい」という願いの前 に、患者さんの心身に悪影響を及ぼしかねないほど、長引く余震と福島原発事故が大きく立ちはだかり始めた。

 

まだまだ続く放射能汚染警戒態勢

 


 
 東日本大震災が発生してちょうど1ヵ月。福島原発から北東へ100Km以上離れた仙台市のJR仙台駅の間近にある仙台往診クリニックが入るビルの屋上に立った。案内する川島孝一郎院長の持つ計測器がピッピッピッと鳴り始める。

                        ビルの屋上で放射線計測をする川島医師。 

 福島原発事故の発生直後、アメリカ政府が在日アメリカ人に原発から80km圏外への避難勧告を発したと報道された。川島さんは在宅療養の患者さんにもすぐに避難の準備をするように伝えたと言う。というのも訪問エリア南の地域は福島原発から100kmしか離れておらず、「80kmで危ないなら100kmでもその何%かの影響や危険があると考えなければならない」と思ったからだ。

 川島さんは放射能測定器を求め計測を始めた「通常の仙台の自然放射線量は0.05マイクロシーベルト/時ですが、このところ屋上で計測するとずっとその3~4倍という状態が続いています。雨水が集まる排水口周辺などは12~13倍。人工放射線の限度量は年間1ミリシーベルトとされていますが、もしこの塵を吸い続けるとしたら、その5倍という量に達します。放射線は被ばく量が多くなるほどがんの確率が直線的に増えるというのが国際的な共通認識ですが、仙台に住む人のがんのリスクは確実に上がっていることになる。行政は『ただちに実害はない』という言い方をしますが、すでに実害は発生していると考えるべきです。宮城県でも知事が早々と「汚染の心配はないから水も野菜も放射線の測定をしない」と宣言した。川島さんは、「まず測定をして正確な数字を提示し不安を拭い去るのが務めのはず。行政の態度は本末転倒」と考え、今現在『安全』という言葉は使えないはず」と不信感を持つ。

 「みんなの目はどうしても家を奪われ肉親が亡くなった一次災害の被災者の方に注がれがちですが、その周辺には命は助かり家屋はなんとか残ったけれど、ライフラインが断ち切られ生活困難に陥った人たちがたくさんいます。この人たちにいち早く救済の手を差し伸べて一次災害の側に落ち込まないようにしなければならないのに、その対応は大きく立ち遅れている。福島第一原発事故による放射能汚染に対して、それが二次災害に繋がらないようにと警戒を呼び掛けて「まだまだ原発の動向から目を離すわけにはいきません」と自らの手で放射能監視を続けている。


 川島孝一郎医師

【購入した放射能測定器】
 左は放射性元素の崩壊の数(放射線を出す量)を表すベクレル(1崩壊/秒)の計測器。右は人体が放射線を受けたとき、その影響の度合いを表す単位シーベルトを測定する計測器。