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インターネットでがん検診

爆発的人気が続くインターネットだが、それでは実際に医療にはどのように活用されているだろうか。
1800万にも達するといわれているホームページに分け入り、がんのホームページにアクセス、その最前線情報を紹介しよう。

吉村克己 (ルポライター)

情報検索の賢い方法

インターネットの急速な普及によって「ホームページ」という言葉もにわかに一般化してきた。ホームページとはインターネット上の機能の一つであるWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)という名称のサービスで提供される情報発信の画面を意味している。
インターネットの普及と共にホームページを立ち上げる個人や企業・組織も増え続け、その情報量は巨大化の一途だ。ホームページの検索サービスを提供しているLYCOS社に登録されているURL(ホームページのアドレス)の数は何と1800万にも達しているが、その実数は誰も把握していない。
玉石混淆の情報が入り乱れる中、インターネット・ユーザーに求められているのは確かな情報をいかに効率よく探し出すかである。
ここではがんをテーマにインターネット上からいかに情報を引き出すことができるのか実践的にレポートする。
まずキーワードから必要なホームページを探し出すのに便利な道具が「ディレクトリー・サーバ」や「サーチエンジン」といわれる特殊なホームページや検索用ソフトだ。電話に例えればディレクトリー・サーバがイエローページ(NTTならばタウンページか)で、サーチエンジンが番号案内だ。
ディレクトリー・サーバとして最も有名になったのがスタンフォード大学の二人の大学院生によって始められた「Yahoo!」(ヤフー)である。カテゴリー別に細かくホームページが分類されているだけでなく、キーワードで検索できるサーチエンジンも搭載されている。日本でもソフトバンクが米ヤフーと合弁で会社を設立し、「Yahoo Japan」という日本版のディレクトリー・サーバを立ち上げた。
またサーチエンジン用のホームページとして世界的には「LYCOS」「The Open Text Index」「ALTA VISTA」などが有名だが、ここでは日本のホームページを対象としたサーチエンジンである「ODIN(Open Documentary Information Navigator)」を取り上げた。

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「気」から「学会」まで様々ながん情報

まず「Yahoo Japan」(URLはhttp://www.yahoo.co.jp/)にアクセスして、「癌」で検索すると「気による癌治療~東洋医学の紹介」「OncoLink Cancer News」「第56回日本癌学会」の三つが現れた。
「気による癌治療」にアクセスすると東京都新宿区にある気光治療院(秋元繁院長)のホームページであることが分かる。「気エネルギーとは何か」「気による体質改善」「臨床例」などが掲載されている。
「OncoLink Cancer News」は米ペンシルバニア大学のがんセンターで制作されているがん関連のニュース情報である。医療専門家や関係者には有用な情報源だ。
「第56回日本癌学会」は97年10月に開催予定の日本癌学会総会概要が掲載されている。参加予定者9000名の大規模な集まりだ。1年以上先の話だが、シンポジウムやワークショップのテーマがすべて決まっている。
ちなみにシンポジウムでは「細胞周期と癌抑制遺伝子」「癌の遺伝子診断の実用化と臨床への貢献」などが冒頭に並ぶ。がんを巡る最先端の研究が遺伝子治療に関係していることが感じられる。

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情報満載の国立がんセンター

次にサーチエンジンの「ODIN」を使って、「癌」をキーワードに調べてみると100以上のホームページが現れたが、素人が見て内容の充実ぶりがよく分かるのが国立がんセンターの「NCC Web」である。
上記のホームページにある「がん情報サービス」(NCC-CIS)がなかなかの内容で、がんを防ぐための12ヵ条、各種がん情報、症状緩和と患者のケア、緩和ケア病棟を有する病院一覧、講演会、および医療従事者向けのがん疼痛の治療など一般向けのがん情報が豊富に掲載されている。
がんを防ぐための12ヵ条は食生活の心がけを中心に予防策がまとめられている。
栄養のバランスを取り暴飲暴食を避けるという基本的なことのほかに、魚や肉を焼いたときにできる焦げ物質には発がん性があるので焦げばかりを大量に食べないとか、ピーナッツなどに生えるカビに含まれるアフラトキシンという物質は少量でがんを発生させるので摂取しないなどの注意事項が書かれている。
各種がん情報は乳がん、肺がん、膵がんなど12種類のがんについて基本知識や症状、自己検診などの診断方法、治療法などが分かりやすく解説されている。参考になるのが診断方法。例えば乳がんでは自分の手でしこりを調べる自己診断のほか、専門医による定期検診、マンモグラフィー検査と呼ばれるレントゲン撮影、乳腺超音波検査などの方法が紹介されている。
各種がん情報では胃がんや大腸がんのような気になるがんがまだ掲載されていないが、今後の情報更新に期待したい。
緩和ケア病棟を持つ病院は全国14ヶ所の病院の概要と地図が紹介されている。このほか、全国がん(成人病)センター協議会加盟施設の一覧も見ることができる。
国立がんセンターの医師による講演も随時案内されるので、興味のある人は足を運んでみたらどうだろうか。ちなみに七月の講演は「食事とがんの関連性」「がんの治療はどこまで進歩したか」というテーマだった。
このほか「ODIN」の検索で目に付いたページが「福岡亀山栄光病院」。この病院は国立がんセンターの緩和ケア病棟を有する病院のリストにも登録されている。
同病院のホスピス長である下稲葉康之氏は「癌告知の理論と実際」と題した論文を掲載している。
冒頭で同氏は「癌告知に関する議論は次第にその是非を越えて、その方法論に移りつつあると言えよう。(中略)敢えて癌告知を行う目的は、患者の生存の質(Qualaity of Life)を高めることである。(中略)今回、改めて当院緩和ケア病棟での経験をふまえて、癌告知について重点的に述べてみたい」と書いている。
がん患者を家族に持つ人にとって非常に参考になるページだ。

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大腸がんの在宅検診もメールで申し込み

広告代理店の第一企画(本社・千代田区)は自社のホームページ上に「サイバーDr.リンク」というユニークな健康・医療関連専門のディレクトリー・サーバを構築している。このサーバはインターネット上に点在する多くの医学・医療関連のホームページを素人の観点から独自に分類し、リンクを張っている。
内容は身体各部ごとに病気・病状・関連知識を整理した「どうしました? 病状、病名、知識」や内科・外科などの各科に分かれた「サイバー病院」、予防を中心とした情報が掲載されている「教えてあげたい」など六つのメニューから構成されている。
もし自分で気になる病状や病気があれば、ある程度の情報をこのページから得ることはできる。もちろん素人診断は禁物で、一つの参考程度と考えるべきだろう。
この「教えてあげたい」のコーナーには国立がんセンターの「がんを防ぐための12ヵ条」と並んで、「急増する大腸がんに要注意!」というタイトルのホームページが目に付く。
このページを作っている大腸がん検診治療研究所は急増する大腸がんを予防するために集団検診を推進している組織だ。
大阪大学微研病院外科が(財)大阪癌研究会と共同実施してきた大腸癌集団検診を九三年六月より医療法人蒼龍会井上病院(大阪府吹田市)が引き継ぎ、その後、大腸がん検診治療研究所として新たにスタートした。
同研究所では自宅にいながら大腸がん検診ができる在宅検診を実施している。便中に出る微量の血液に鋭敏に反応する「免疫便潜血検査法」によって簡単に調べることができるようになった。
検診を申し込むと検査キットが届けられるので便を検査キットの潜血スライドにぬり、問診票と共に郵送するとわずか一週間程度で結果が返送されてくる。
痔の症状がないのに便に血が混じる、大便の前などにお腹が痛む、便秘と下痢を頻繁に繰り返す、便柱が細い、あるいは家族に大腸がんの患者がいたという人は一度受診してはどうだろうか。全国どこからでも、電子メールでも申込みは可能だ。
「サイバーDr.リンク」と同様に自己診断できるシステムを用意しているのがセコム(本社・新宿区)の提供する「ウェルネスクルーズだ。発熱、頭痛、めまい、せき・たんなど自分で気になる症状を選んで、提示される質問に回答していくと最後に可能性のある病気と簡単な説明、診断を受けるべき受診科が案内される。
例えば「やせ」を選ぶと、次に「食べる量が少なくなってきましたか?」「下痢をしていますか?」などの質問が画面に出てくる。それに対してYES/NOで答えると、可能性のある病気として「潰瘍性大腸炎」「クローン病」「大腸癌」が示された。
大腸がんは食生活の欧米化と共に10年間で2倍に急増し、特に女性に増えているという。インターネットをチェックし、癌に関する最新情報を入手することが癌予防にもつながる。
ただし日本のホームページはまだまだ癌にテーマを絞ったサイトが少ない。医療・健康関連のホームページの数は多いが、一般のユーザーが日常生活で役立たせることができるような作りにはなっていないようだ。
今後、予防医学の重要性が増せば増すほどインターネットなどのコンピュータ・ネットワークを使った日常的な健康管理指導や情報伝達が必要になるだろう。さらに技術が進展すればビデオカメラで画像を伝達して診察を受ける在宅診療も可能になる。
そうした時代に向けて医療の専門家たちが一般ユーザーに語りかけ、双方向で情報をやり取りできるようなホームページを開設してくれることを期待したい。