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死とターミナルケア

がんが日本人の死因の一番である現在、
ホスピスが医療の中で占める役割は非常に大きい
にもかかわらず、ホスピスはまだまだ一般には知られていない。
しかしネット上ではさまざまな立場から
地道な活動が繰り広げられている。

吉村克己 (ルポライター)

ホスピスの役割とは何か

この6月、筆者がお世話になっていたある作家が急逝した。「酒を飲み過ぎたからしばらく静養だな」と入院した2カ月後に、突然容態が悪化。私は急変したことを知らず、そろそろ退院かなとお見舞いに行ったのだが、病院に到着したわずか1時間前に亡くなっていた。なんとあっけなく人はこの世におさらばしてしまうのだろう、と呆然とした。

今回、ターミナルケア、ホスピス、尊厳死などのサイトを探しながら、そんなことを思い出していた。すると一つのホームページに目が止まった。横浜市在住の「たぬさん」が書いたお父さんとの闘病記「父のガンに伴走して」である。

末期がんに侵された父親に付き添い、ホスピスや自宅で共にがんと闘ったたぬさんの記録であると同時にホスピスの役割、がん告知の問題なども考えさせてくれる。

「ホスピスに漠然としたイメージは持っていましたが、父がお世話になってその真価を知りました。患者へのケアはもちろんのこと、その家族に対するケアや教育がいかに重要かホスピスで教えてもらいました」とたぬさんは語る。

たぬさんが信頼を寄せるホスピスが横浜甦生病院ホスピス病棟である。病棟長の小澤竹俊さんは自らホームページを開設し、緩和医療とホスピスに関する基礎的な情報を提供している。

ホスピスと緩和ケア病棟の違い(ホスピスとはその人がその人らしい生を全うできるように患者及び家族を支えるためのプログラムを指し、自宅でも可能だと小澤さんは考える)、ホスピス医療を希望する人に多い質問、あるいは死別する悲嘆に苦しんでいる家族に対する死別サポートグループの一覧もある。

ホームページを開いた動機について小澤さんはこう語る。「ホスピスについて知りたい人に対してわかりやすく情報を提供することが一番の狙いです。反応としては、現在闘病中の家族からの相談や、ホスピスを将来事業として考えている人などからメールが寄せられています」

宮崎県にもホスピスがほしい

まだまだ日本にはホスピス病棟あるいはホスピスのプログラムを提供する病院は少ないが、横浜甦生病院と並んで有名なホスピスが福岡県にある。福岡亀山栄光病院である。同病院のホームページでも、ホスピスの基礎知識の他、ホスピスに関する相談なら何でも電話で受け付けてくれる「ホスピス110番」がある。悩みを一人で抱えているよりは専門家に相談をした方がいいだろう。

「宮崎県にもホスピスがほしい」という一人の主婦の願いから大きな運動に発展した会がある。「宮崎ホスピスの会」である。夫をがんで亡くした主婦、小玉冨子さんの呼びかけから署名運動が94年に始まり、たった4カ月で3万5000人の署名が集まった。

その署名を持って宮崎県知事にホスピス施設建設の陳情を申し立てたが声は届かず、小玉さんらはその後もねばり強く活動を続けてきた。そして今年6月、宮崎県議会へ請願書を提出、9月には日南市議会に陳情書を提出し採択された。しかしまだまだ建設への道のりは遠い。

宮崎ホスピスの会のホームページを管理する赤丸悟志さんはこう語る。「私たちの会は、患者、家族の立場で、よりよいターミナルケアを求める側の視点から情報を発信しています。インターネットを通じてできるだけ多くの方々とつながりを作っていきたいと考えたのもホームページを開設した動機の一つです」

高齢化とがんの低年齢化が進むなかで、ホスピス病棟やターミナルケアのための医療体制がますます求められる。今後も各地で宮崎ホスピスの会のような動きが高まるだろう。そのときにはインターネットが連携のための重要な道具となっているはずだ。

医療関係者の地道な活動

医療者側の視点からターミナルケアを考えるホームページが「ターミナルケアを考える会・広島」だ。93年に設立された同会の趣旨は「末期がん医療の抱える問題について医療従事者と患者・市民とが対等の立場で考え、ケアを前進させていく」ことである。そのためこのホームページでも一般市民に広く参加を呼びかけている。

ぜひ一読していだきたいのが、会員からのメッセージ「もみじ」である。ここには各地の病院の医師・看護婦、主婦、医学生などが率直な思いを語っている。また緩和ケア(ホスピス)病棟を持つ病院一覧も充実している。

会長の本家好文さん(広島総合病院・放射線治療医)はホームページ開設の動機をこう語る。

「医療者自身にも、緩和ケア病棟や在宅ケア支援システムなどに関する知識や情報があまりにも少ないため、誤解されていることも多かったというのがきっかけです。また少しずつ盛り上がってきているホスピス運動も、実際の医療の現場ではまだまだマイナーな分野であり、ホスピスマインドを持って医療を実践している人たちは、それぞれが孤立しながらも頑張っているというのが現状です。そういう人たちと連携することでそれぞれの励みにもなり、それらを積み重ねることで全国規模のネットワークができればという願いも持っています」

こうした医療関係者の地道な活動もあることを知って心強くなった。

また尊厳死を考える上では日本尊厳死協会のホームページが役に立つ。同協会では無理な延命治療を拒否し、自然な死を求めるための「尊厳死の宣言書」(リビング・ウイル)の登録・保管を行ってくれる。すでに8万人の会員が登録しており、同協会の調べでは97年で96%の医師がリビング・ウイルを受容しているという。

海外では不治の病に侵された患者がまだ健康なうちに死を選択するという例も少なくない。果たしてそれも尊厳死といえるのか。自らの生を全うするためにも死とターミナルケアの問題を改めて考える必要があるのではないだろうか。

ターミナルケアを考える会・広島