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C型肝炎患者を支援するホームページ

日本は先進国の中でも肝がん死亡率の高い国だが、
その背景にはC型肝炎への対策で後手後手を踏んできた
旧厚生省の無為無策がある。
200万人を越すというC型肝炎感染者に検査を促し、
早期治療への対策をいまこそ打つべきだ。

吉村克己(ルポライター)

不可解な厚生行政

景山昇さんが、1980年に肝機能の異常を指摘されたとき、すでに慢性肝炎にかかっていた。以来、通院治療を受けているが、肝硬変から合併症を併発するなど症状は進んだ。病名は当時、まだ非A非B型肝炎と呼ばれており、92年になって初めてC型肝炎であることが確認された。
景山さんは感染原因を集団予防接種の際の注射器の連続使用ではないかと考えているが、そうだとすれば40年以上もC型ウイルスと付き合ってきたことになる。

80年以降、20年間にわたる貴重な闘病の記録を景山さんは99年1月にホームページに公開した。「(かげやま)のホームページ」では、自らの治療や血液検査記録だけでなく、C型肝炎に関する最新情報など患者にとって有用な情報が豊富に掲載されている。2000年11月にはそれを『C型肝炎とともに生きる』(マキノ出版)という1冊の本にまとめた。

ホームページを開設した動機について景山さんは、「C型肝炎で苦しむ患者は多く、もし私の体験が何かのお役に立てればと思いました。私が訴えたいことは症状がないからといって、C型肝炎を甘く見ないこと。早期の治療ならインターフェロンなどの薬が効果的です」と語る。
景山さんのサイトの「記録」というコーナーを見ると、医師の治療方針に関して首を傾げたくなるような記述が出てくる。とくに92年9月から行われたC型肝炎の主要な治療薬インターフェロンの投与に関しては強く疑問を感じる。景山さんの記述によると、当初5月から投与を予定されていたものが、医師から「(肝機能の)数値が下がってきており、インターフェロンは副作用もあるので見合わせたほうがよい」と中止され、その後、9月から投与を開始されたものの、3か月で打ち切られ、継続を強く拒否されたというのである。

確かにインターフェロンは発熱や脱毛などの副作用はあるが、景山さんの場合、投与後に肝機能の数値が正常値に戻るなど、改善が見られたにもかかわらず打ち切られた。そして、その後、数値は悪化した。
実は2000年4月まで、日本ではインターフェロンの保険適用期間が6か月と定められていた。
その後、最長1年まで投与が認められるようになったが、なんと旧厚生省は6か月以上のインターフェロンの投与については、症状が改善した患者以外は保険適用外という信じられない通達を出した。
つまり治りにくい患者は自費でやれというのである。旧厚生省の目的は医療費抑制のみ。そのために保険適用期間を制限している。
これがいかに異様なことか、日本大学生物資源科学部・医学部助教授の池田和正さんの「C型肝炎についての個人的見解」というサイトを見るとよく分かる。池田さんは自らC型肝炎に罹患し、その治療体験を元に学者らしく冷静に整理・分析した治療指針を掲げている。同サイトの「インターフェロン」のコーナーでは「投与の割合と期間はどう考えるか?」と題し、投与法の日米比較を分かりやすく論じている。

それによれば、日本ではインターフェロンの保険適用期間が六か月と定められていたために、短期間で大量のインターフェロンを投与する傾向が強いが、欧米では制限などないために少ない量で長期に投与し、その効果はさほど変わらないという。

また欧米では、ウイルスのタイプの違いにより投与量を変えたり、インターフェロン以外の治療薬(リバビリンなど)を投与するが、日本ではそうした治療薬の認可も遅れている。インターフェロンは高価な薬であり、厚生省としては医療費を抑制するために、C型肝炎患者を切り捨てたということになる。
池田博士は日本の保険制度に一定の評価を与えつつも、こう語る。
「日本の場合は、何をするにも対応が遅い。人を病から救うためにもかかわらず、段階を経なければならない体裁的なことが多すぎる。また、利害関係のある企業間の政治的な競争がそれを妨げている環境にも問題が大きい。保険制度自体はうまく機能してきたと思うが、その機構の在り方の問題が大きいため、将来に向けての改革が進まず、むしろ日々後退している感があります」
景山さんも「アメリカではC型肝炎に対する危機意識があり、国を挙げて撲滅へ向けての研究が進められ、多くの新しい薬の治験が行われているようです。日本では常に(何事においても)アメリカの後追いで、研究費も少ないと聞いています」と語る。

アメリカではC型肝炎感染者は400万人に達し、政府は100万ドル以上の予算を組んで潜在感染者に検査を呼びかける大規模なキャンペーンを展開するなど、その問題意識は旧厚生省とは比べものにならない。
「Mrs. ElaineのC型肝炎情報のホームページ(日本語版)」では、こうしたアメリカの医療事情がよく分かる。このサイトは、テキサス州在住で15年以上もC型肝炎キャリアのエレイン・モーランドさんが作ったサイトを日本のボランティアの人たちが翻訳したもので、体験談や最新治療薬などの情報が満載されている。
治療薬リバビリンの効果や副作用などの情報も豊富だが、ぜひ参考にしていただきたいのが「患者としてのあなたの責任と権利」というコーナーだ。ここには患者としての医師への接し方、質問の仕方などが具体的に書かれている。アメリカほど医療現場がオープンではない日本では難しいだろうが、自分の治療方法については決して医師任せにはしたくないものだ。

まだある偏見と差別

日本ではC型肝炎の感染者は200万人以上と推定されているが、やはり自ら感染を知らないケースが多い。
東京肝臓友の会事務局の天野秀雄さんは「肝臓病は自覚症状のない病気です。自身で気がつかないうちに障害が進んでしまう場合が多く、患者自身が肝臓病に関する知識を身につけることが大切です」と語る。
同会では、年間六回発行される会報で最新の医療情報などを提供するほか、患者同士の交流会や相談業務も行っている。こうした患者会の活動が重要なのは、まだまだウイルス性肝炎に対する誤解と偏見が残っているからだ。

「肝臓病患者会のホームページ」を作成した、みなとウィルス性肝炎患者会「わかば会」事務局の井上雅博さんによれば、数年前には歯科医での診療拒否や、福祉施設での入所拒否もあったという。そこで患者会で具体的な事例を示して行政と交渉し、行政指導を要請している。
「しかし、インターネットでの相談事例では、企業検診の結果が社内で公開され(これ自体違法なことですが)、肝機能が悪いことで社内で変な目で見られてい るというケースがありました。また、肝炎ウィルスのキャリアであることが判明した時点で採用内定取り消し、あるいは退職強要ということもあるようです」と 井上さん。
C型肝炎は感染力が弱く、日常の社会生活で感染することはない。主要な感染源は輸血や注射器の不適切な連続使用によるものだ。企業はその事実だけでも知る べきだろう。機能不全に陥っている厚生行政の被害者であるC型肝炎患者をさらに打ちのめすようなことだけはやってはならない。

C型肝炎についての個人的見解
肝臓病患者会のホームページ