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「拍板」(はくばん)木の音色

音楽家、劉宏軍さんが、中国で10年の歳月をかけ、正倉院に伝わる楽器を復元、唐時代の宮廷音楽の音色を現代によみがえらせる。

プロフィール写真

劉宏軍 (Lyu Hongjum

中 国遼寧省大連に生まれ。国立中国歌劇舞劇院管弦楽隊に入り、フルート首席奏者などを務める。1980年の来日以来、中国民族音楽の研究・演奏・作曲活動を 行う。NHKテレビ「シルクロード遥かなる調べ」、映画「ラストエンペラー」の作曲・演奏を坂本龍一とともに担当。また、アジア諸国、太平洋諸島の民族音 楽の調査・研究・復元に情熱を傾けている。


正倉院に収蔵されている古裂の「唐散楽楽工の布衫」(唐代の民間芸能の音楽を演奏している人たちを描いた薄い布)に百子(拍板)という楽器が描かれている。何枚かの堅い木板に穴を開けて革ひもで結び、両手でもって打ちたたき音を出す楽器で、腰鼓、横笛とともに唐の散楽の三楽器と称された。特に拍板はリズムをとるのに用いられ、手拍子から転じた原初的な体鳴楽器とされている。
これと同じ拍板を奏でている伎楽図が中唐期の敦煌莫高窟112窟の阿弥陀浄土変相図と159窟文殊変相図の中にある。阿弥陀菩薩や文殊菩薩の前で、楽しそうに伎楽を奏でる図は、奈良の大仏落慶法要のおり、唐から渡ってきた楽器の往時を偲ぶのに十分である。
伎楽図に描かれた、拍板の枚数を注意深く数えてみると6枚連なりになっている。奈良時代以降の文献を見ると拍板のことを「百子」とか「拍子」と伝えている。
何枚かの木を連ねた拍板は、今の中国や韓国に見ることができるが、国内では正倉院の文献や古裂の中に資料として散見されるのみで、日本雅楽の楽器にも伝承さ れていないし、実物も発見に至ってない。これに近いものに、貴族の持つ骨や木で作られた笏を二つに割り、打ち鳴らし、歌い手がそれでリズムをとりながら 「雅楽」や「東遊び」「大歌」などで用いた「笏拍子」という楽器があるが、それらは相撲などで使われる体鳴楽器「拍子木」にその名を残しているように思わ れる。