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関羽の霊魂が呉の武将呂蒙にストレスをあたえる

思い煩ったり、悲しみが有りすぎることを「断腸の思い」という言葉で
表現することがある。
本当に感情過多になると死に至ることがあるのだろうか。
前号の周瑜に続けて呂蒙の死因を探る。

岡田明彦

普浄が庵をむすんでいた玉泉院。ここに関羽の霊が現れる。関羽が麦城で呉の呂蒙に首を刎ねられて死ぬと、その霊魂は当陽にある玉泉山の普浄という高僧の所に現れ「切られた首を返せ」と迫るが、普浄に「では、今までおまえが殺した者たちの霊魂はどうなるのだと」諭され、悟った関羽の霊魂は生まれ故郷の解州に帰り、亡骸だけが当陽に葬られたと伝えられている。

三国志演義によると、関羽の霊魂はこの時までに様々な所へ現れる。麦城を守る味方の王甫の夢枕に現れて自分が死んだことを告げたり、関羽の首を跳ねて喜んでいる呂蒙に馮依して、孫権をねじ伏せ、罵倒したりする。そのあまりの恐ろしさに、「呂蒙は肝をつぶして、7つの穴から血を吹き出して死んでしまった」と記載されている。このくだりにも中医学の人体を有機的な統一体とみなす身体観がよく表れている。

当陽の関陵には関羽の胴体だけが葬られた。この7つの穴すなわち目、舌、口、鼻、耳の頭部と顔面部分にある五官(五臓と関連する感覚器官)の穴を中医学では七竅といい、これに尿道と肛門を合わせて 九竅ともと呼んでいる。たとえば、目と肝、舌と心、口と脾、鼻と肺、耳と腎というように、各穴と各臓器はそれぞれが気血の流れで繋がっていると考えられて いる。また人間の喜・心、怒・肝、思・脾、憂と悲・肺、恐と驚・腎というように7種類の感情の起伏もまた各臓器の生理に深く関係していて「七情」という考 え方で説明している。「断腸の思い」という言葉に示されるように悲しむ感情が多くなるとはらわたが引き裂かれそうになることは周知のことである。

呂蒙のように関羽の霊魂に憑依され、全ての感情をコントロールできないほどの急激で強烈なストレスを受けると、各臓器の機能が失調して病を引き起こし、七竅から血を噴き出し死に至ったということも文学的表現ばかりとは言えなく、まさに呂蒙の身に中医学的所見が起こったと見ることができる。

落陽にある関林は関羽の首塚
霊魂が帰った所とされる解州関帝廊
関林の関帝像
関羽最期の場となった麦城付近