自然薬(ナチュラルメディスン)としてのハーブの歴史的な使用法は各時代の文学での記述やエピソードなどによってうかがい知ることができますが、現代の科学的な研究の結果と比較してみるとその使用法が極めて合理的であることがわかります。
今回、紹介するハーブも数多くのエピソードを持っていて、往時の人々の自然に対する洞察力の深さには驚かされるばかりです。「海のしずく」という意味の語源を持つローズマリーは地中海沿岸の海岸線に自生するシソ科のハーブで、フレッシュハーブはクッキングに、エッセンシャルオイルはアロマテラピーにそれぞれ現在でも繁用されます。
1235年、ハンガリーのエリザベス女王のために処方されたローズマリーのチンキ剤によって女王は持病のリウマチを克服し、さらに心身ともに若返り、隣国のポーランド国王から求婚されたというエピソードが残っており、この処方はハンガリーウォーターと名づけられ今でもウィーンに保存されているということです。ことの真偽はともかくとしてこのエピソードはローズマリーの成分であるロスマリン酸の並はずれた抗酸化作用(老化防止作用)や精油成分であるピネンの強力な血液循環促進作用を表していると言って良いでしょう。
人智学やそれに基づくシュタイナー医学の創始者であるルドルフ・シュタイナーもローズマリーを「最高の強壮剤であり、活力を増強し、身体全体の新陳代謝機能を高める」と述べています。また当時の人々は結婚式や葬式など永く記憶にとどめておきたいセレモニーに出席する際にはローズマリーで作ったサシェを身につけたといいます。ハムレットには「追憶のローズマリーよ。愛と思い出を与えて下さい」というセリフが出てきます。
これらのエピソードはローズマリーの芳香成分が脳の海馬と呼ばれる記憶を司る領域に働きかけることを表しています。実際に欧米ではローズマリーと同じように脳の賦活効果が確認されているイチョウ葉とブレンドして痴呆症に適用されています。
メディカルハーブの分野ではこのような全身への強壮効果のあるハーブを「トニック」と呼んでいます。トニック剤はストレスによって全身の生命力が低下している状態や、老化による生命力の低下に刺激を与え生き生きとした躍動感を回復してくれます。
ローズマリーのトニック効果がわが国でも知られるようになり、毎年、共通一次試験の直前になるとローズマリーの精油の需要が高まるのもほほえましいエピソードです。ローズマリーのわが国での古い呼び名のマンネンロウ(万年郎)は”永遠の青年“の意味。なかなかうまいネーミングと言えるでしょう。
1.ハーブティー
●記憶力の低下やもの忘れがひどいときに
ローズマリー2gとペパーミント2gをブレンドし、熱湯200mlで3分間抽出し、1日3回服用します。服用する際にはアロマテラピー効果を高めるため香りを楽しみながらゆっくりと服用します。また、しばらくの時間、口の中に含んでいると舌下の粘膜から吸収されるので効果的です。
2.温湿布
●疲れがとれないときや二日酔いの回復に
洗面器に適量の熱湯を用意し、ローズマリー20gを入れて適温になるまで抽出し、湿布液とします。横になって肝臓のあたりにタオルなどを用いて温湿布します。冬期はタオルの上にもう1枚、厚手のタオルをかけて保温します。タオルが冷めたら取り替えます。
3.チンキ剤
●冷え性や血行不良、虚弱体質に
白ワインまたはウォッカ100mlにローズマリー15gを入れ、フタをして2週間浸出しチンキ剤を作ります。浸出は部屋の暖かい所で行い、1日1~2回振り混ぜます。浸出が終わったらスポイトビンに移します。そのまま服用するか、またはジャーマンカモミールティーやリンデン(西洋ボダイジュ)ティーに適量を加えて服用します。患者が肝臓疾患やアルコール禁忌の場合は服用する際に熱湯をかけてアルコール分を飛ばして服用します。