月見草
生理痛や生理前症候群の改善、さらにアトピー性皮膚炎、リウマチなどのアレルギー性疾患にオイルやカプセルの形で内服します。
林真一郎(薬剤師 グリーンフラスコ(株)代表)
月見草(マツヨイグサ)は南米チリの原産とされ、はるか昔にわが国に渡来しましたが、現在では野生化して山野や河原、線路際などに広く見られるようになっています。多年草で高さはおよそ90センチに達し、香りのある黄色い花を咲かせますが、翌朝には黄赤色に変わり、しぼんでしまうところから月見草(マツヨイグサ)の名がつけられたようです。風邪でのどが痛む時や体調がすぐれない時に葉や根を煎じて服用されましたが、葉が冬を越すため、野菜の代用に食材として供されることもあったようです。
月見草にはいくつかの種類がありますが、欧米の植物療法で主に用いられるのはメマツヨイグサ(イブニングプリムローズ)と呼ばれる種類です。メマツヨイグサは北米原産で、その地域の先住民(インディオ)が数千年も前からこの植物の種子の油を圧搾し、痛み止めや感染症、皮膚病や外傷に内服したり外用して用いてきた歴史があります。17世紀に入るとヨーロッパに伝えられ、たちまちのうちにその効果が評判となり、「王様の油」や「王様の万能薬」と称されるまでになりました。
その秘密はこの種子におよそ9パーセント含まれているガンマリノレン酸(GLA)と呼ばれる脂肪酸が握っていました。GLAは体内に入ると代謝を受けてプロスタグランジンと呼ばれる生理活性物質に変換され、血圧の安定化や子宮筋の調節、それに免疫系に作用してアレルギーを鎮めるなどの様々な生体機能の調節に関与することが知られています。
私たちは、ベニバナ油など幅広い食品に含まれているリノール酸を摂取すると体内で代謝を受け、自然にGLAを作ることができます。ところが食事の質が悪 かったり、アルコールの摂取が過剰な場合には、リノール酸をGLAに変換する酵素が阻害され、GLAを作ることができなくなってしまうのです。このような 場合には月見草油の形でGLAを補給してやればその不足を解消することができます。GLAは母乳の中に含まれている他は自然界には極めて珍しく、月見草や ボリジ(ルリジシャ)、ブラックカラント(クロフサスグリ)など数種の植物にしか発見されていません。
月見草油の適応として最も繁用されているのは生理痛や生理前症候群の改善で、ついでアトピー性皮膚炎、リウマチなどのアレルギー性疾患にオイルやカプセルの形で内服されています。またこれ以外にも脂質代謝の改善による肥満の治療や、カルシウム代謝の改善による爪や髪の弱質化の治療などにも用いられ、最近では糖尿病やその合併症にも適応が広がっています。アロマテラピーの分野でも生理痛に対して月見草油をマッサージオイルに加えて経皮吸収させる方法が幅広く試みられています。
1.月見草油のオイルやカプセル剤
月見草の種子を圧搾して油を得ることができますが、非常に酸化しやすいので市販のオイルカプセルを用います。生理通や生理前症候群、アトピー性皮膚炎やリウマチに1日量として500ミリグラム~3000ミリグラムを3回に分け、食後に服用します。食後に服用するのは食前に比べてGLAの吸収が高まるためです。
2.月見草油のマッサージオイル剤
ホホバ油やマカデミアナッツ油9ミリリットルに月見草油1ミリリットルの割合で混和し、マッサージオイル剤として生理通や生理前症候群に下腹部や腰の周辺をマッサージして、ていねいにすり込みます。アロマテラピーではこの処方に加えてクラリセージのエッセンシャルオイル(精油)を2滴加えてよく混和し、同様に用います。クラリセージのエッセンシャルオイルは、女性ホルモンの分泌を調節する働きとともに、筋の緊張を和らげ痛みを鎮める鎮痛作用を有しています。
3.月見草油の軟膏剤
ミツロウ(ミツバチが作るロウ物質)五グラムを湯煎して溶かし、マカデミアナッツ油22ミリリットルと月見草油3ミリリットルを加えて混和し、湯煎から出して常温で放置すると軟膏状に固まります。皮膚の乾燥や湿疹などに、ていねいに塗布します。月見草油は酸化しやすいので製したものは必ず密封し、冷暗所で保存し、少量ずつ作って常に新しいものを使うようにします。