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「健康とは何か」を考える – 4

サプリ、トクホを健康管理に上手に利用する

健 康食品で有効性を科学的に証明されたものはまだほとんど存在しない。しかし、そのニーズはまだまだ高まると考えられる。また市販薬品にも新しい規格が取り 入れられ、体調を自己管理する「セルフ・メディケーション」の環境が変わってきた。日本補完代替医療学会理事長で金沢大学大学院「補完代替医療学講座」特 任教授の鈴木信孝さんから、健康食品との付き合い方について聞いた。

鈴木 信孝

1981 年、防衛医科大学校卒業。現在、金沢大学大学院医学系研究科臨床研究開発補完代替医療学講座特任教授。99年からハルビン医科大学客員教授を併任、 2001年から日本補完代替医療学会理事長も務める。医学博士。補完代替医療分野の中でも、とくに各種機能性食品群の臨床研究が専門。著書に『「適切な代 替医療」選択のポイント』(日本医療情報出版)。

「抗がん効果」は根拠なし

が ん患者やその家族、医療関係者などの間で『がんの補完代替医療ガイドブック』という小冊子が注目されている(http://www.jcamnet.jp /からダウンロード可能)。がん患者によく利用されている五種類のサプリメント(アガリクス、プロポリス、AHCC、サメ軟骨、メシマコブ)について、国 内外の科学論文を検索して、科学的根拠が認められているかどうかを調べて報告したものだ。厚生労働省がん研究助成金により作成されたもので、小冊子の作成 には金沢大学補完代替医療学講座が携わった。鈴木さんは話す。
「がんの患者さんのほぼ2人に1人はサプリを利用していますが、なかには冷静な判断に基づかずにやみくもに乱用をして、かえって健康被害が出るというケースもあります。患者さんにちゃんと考えて判断してもらう材料として、このガイドブックが作られました」
気 になるのは、どんなサプリが有効かということだが、このガイドブックのまとめには、おなじみの五種類のサプリについて、次のように記述されている。〈多く のがん患者が補完代替医療に期待していたがんに対する直接的な治療効果(がんの縮小、延命効果など)を証明するような報告はほとんどありませんでした〉
ガイドブックの結論は、多くのがん治療の専門家に引用された。「根拠のない健康食品に頼ったりせずに、標準治療をしっかり受けることが大切」という意見も多い。
しかし、サプリの抗がん効果は証明されていないといっても、無効性が証明されたわけでもない。ガイドブックはとりもなおさず、「健康食品はほとんど科学的検証が行われていない」ということを物語っているのだ。

科学的検証で先行するアメリカ

ア メリカのNIH(国立保健研究所)やNCI(国立がん研究所)では近年「がんの化学予防」という考え方が示されるようになった。がんの化学予防とは、発が んを予防したり、進行を遅延させるために、薬理学的、生物学的、栄養学的な介入を行うこと。なかでも健康食品・サプリメントの役割が期待されており、それ らに科学的な検証の目が向けられている。
NCI予防部ではラピッドプログラムと呼ばれるがんの予防剤の開発研究が進んでいる。これまでの抗がん医 薬品は、有効な単一成分を見つけ出して利用するものだった。このプログラムは複合化合物の成分が不明であっても、有効性と安全性が確認されていればそのま まがん予防剤として採用しようという試みで、こうした医薬品をボタニカルドラッグ(植物性医薬品)と呼ぶ。
もちろん健康食品・サプリメントに対する期待は抗がん効果だけでなく、美容や老化予防なども含めてとても幅広い。鈴木さんはこの意味でも科学的検証の必要性を主張する。
「サ プリメントの多くは、伝統医学の中で長く使われてきた裏づけがあるのですから、健康にいい何らかの効果があると考えるのが自然です。たしかに現代西洋医学 はすばらしい発展を遂げてきましたが、痛みや疲労、老化といったQOL(生活の質)の問題に対してはいまなお得意ではなく、健康食品はこれらに対応できる 可能性があります」

注目したい「メタボトクホ」

私たちが「健康食品」と呼んでいるものには大きく分けて3種類あり、うち2種類は「保健機能食品」というグループに入る。保健機能食品の一つは国(厚生労働 省)の審査や許可が必要な「特定保健用食品(トクホ)」だ。もう一つはビタミンとミネラルを補給する「栄養機能食品」で、国の規格基準に基づいて作られて いれば許可や届出の必要はない。保健機能食品でないものは口に入れて害がなければ許可や届出、規格基準などは必要がなく、「いわゆる健康食品」と呼ばれ る。サプリメントとは錠剤やカプセル、アンプルなど薬剤の形をした健康食品を指し、多くのサプリは「いわゆる健康食品」に分類される。
さまざまな健康食品の中でもトクホは「国からおスミつきを与えられた健康食品」ともいえる。以前トクホは、食用油やお茶、お菓子など、ふつうの食品の形をしたものだけに限られていたが、現在では錠剤やカプセルなどサプリのタイプも認められるようになった。
ト クホには、人が両手を上げて伸びをしているようなマークがつけられている。「血圧が高めの人に」とか「血糖値が気になる方へ」などとも書いてある。一般に 食品には「これを食べると健康になる」というふうに表示することは厳しく制限されているが、トクホにはそれがある程度許されているのだ。メタボリックシン ドロームへの効果がうかがえる食品が多く、「メタボトクホ」と呼ばれるようになっている。鈴木さんは話す。
「トクホは健康が気になる人たちによく 利用されている商品です。たとえば健診などで『ちょっとコレステロール値が高い』と指摘されながら忙しくて医師を受診できない人や、『わざわざ医師の治療 を受けるほど大きな問題ではないだろう』と考える人が利用するといいかもしれません。ちょっとした食品の選択で生活習慣病の危険性を引き下げることができ るなら歓迎
すべきではないでしょうか」

サプリメント利用5つのポイント

私たちは現段階ではある程度「期待を込めて」健康食品を利用しているのが実情だろう。健康食品・サプリメントは、こうした生活習慣上の問題点をカバーしたり、現代医学では解決されていない健康上の問題点に応えてくれることが期待される。
こうしたことから鈴木さんは、健康食品を上手に利用するポイントを次のように挙げる。

・自分にとって何が必要なのかを知ること
たとえば「ふだん野菜が不足しがちだ」「ストレスが多い」「膝関節に不安がある」「視力が衰えた」など、どんな問題があり、どんな健康食品を補うとよいかということを知ったうえで用いる。

・食品として安全であるという証拠があること
必要以上に食品添加物を使っていたり、賞味期限を過ぎている商品は有害性が考えられるので、品質表示には十分注意する。

・乱用は避けること
サプリは特定栄養素を取りやすい形にしたものなので、取り過ぎになってよくない結果を招く恐れがある。「1日○○粒を目安にしてお召し上がりください」といった表示があるので、それに従うように。

・薬や他のサプリメントとの併用に十分注意すること
相乗作用で健康被害が出る場合がある。たとえばニンニク、イチョウ葉、薬用ニンジンなどは、血液を固まりにくくするワルファリンなどの薬剤と併用すると出血しやすくなる。できれば、かかりつけの医師や専任の販売員などに相談してから利用することを勧めたい。

・体調を確かめながら続けること

医薬品ではないので、すぐに効果が現われるわけではない。体調を見ながらじっくり付き合うつもりで。ただし2~4週間飲んでみて期待していたような効果がまったく現われないとか、飲み続けていると体調が悪いと感じたり、異変が現われるようなら、すぐに使用は中止する