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尾瀬ヶ原(日光国立公園特別保護地区)

水芭蕉

尾瀬ヶ原に春が巡ってくるのは下界ではもう春のたよりも聞かれなくなった初夏になってからのことだ。雪で覆われたモノトーンの尾瀬ヶ原に四方の山々から雪解け水が流れ込み、清冽な水で満たされると、水芭蕉が白いマントに身を包みながらあちらこちらに顔を出す。
そのときを待っていたかのように、湿原に潜んでいたリュウキンカなどの高山植物たちが黄色、ピンク、紫など色とりどりの花を一斉に咲かせ、尾瀬ヶ原は天然色の世界になる。
その光景につられて尾瀬ヶ原に敷かれた木道にハイカーの靴音が鳴りひびくのも、このころの風物詩になっている。木道を歩きながら尾瀬ヶ原を吹き渡る心地よい風や初夏ののどかさにつつまれ、時を忘れ、ふといま来た木道を振り返ると、木道は二条の白い光となって至仏山のほうへかき消えていく
ように見えた。
歩き疲れて山小屋に着いたとき、陽はもう至仏山のほうに傾き、山から肌寒い風が吹き込んできてハイカーの声も靴音もかき消した。