水むるむ
浜名湖畔の舘山寺温泉に、浜松医科大学心療内科(永田勝太郎科長)が実践する温泉療法のために湯治場を提供している「レイクホテル・花乃井」がある。そこで永田医師の指導の下、湯治に1ヶ月間ほど訪れている婦人の湖畔散歩に同行させてもらった。
風が強いせいか湖面の波頭は、白うさぎの大群が野原を飛び跳ねているように見える。日射しは暖かく、風の寒さから、いくばくかの温もりをあたえてくれていた。湖畔に作られた遊歩道を、この地方に残る伝説などを教えてもらいながら散策する。
弘法大師が開山したと伝えられる「舘山寺」にたどり着いた。婦人は散歩のたびにこの古刹にお参りし、そこから木々に覆われた間道を抜けて「西行岩」に行くのを楽しみにしているようだ。浜名湖へと突き出した白い岩肌の西行岩は、西行が参禅した場所とされている。婦人は、湯治場に来て朝な夕なに浜名湖の水辺にふれているうちに、空海も西行も修行したというスピリチュアル・ポイントを見つけたようだ。
婦人に言われるままに西行岩に立つと、眼下の水や大地の力、頬にふれる風、肩に当たる柔らかい日射し、木々の匂い、鳥の鳴き声、五感に感じられるそれぞれが一体となって身体ごと包んでくれる。うまくは言えないが、それは自然との一体感を生命の力が感受した瞬間だったのだろう。