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電磁波と健康を考える – 3

電磁波生活を生き延びるための基本知識

荻野晃也 (おぎの・こうや)

1940年富山県生まれ。京都大学工学部講師。理学博士。原子物理学、原子核工学、放射線計測が専門。原発、人権、環境問題など多方面で活躍。主な著書に『原子力と安全論争』(技術と人間)『原発の安全上欠陥』(第三書館)『ガンと電磁波』(技術と人間)他多数。

いまのところ、電磁波は安全であると主張するにしても危険であると主張するにしても証拠は不十分だが、我々は電気に取り囲まれ、電磁波を浴び続けていることは事実である。我々の生活のどこに危険性が潜んでいるのか、それをどう低減できるのかを考えてみる。

高圧送電線

日本の高圧送電線の直下(周囲数10m付近)では最大200ミリガウス(20マイクロテスラ)の電磁波を被ばくし、通常は10ミリガウス(1マイクロテスラ)前後とされている。もちろん高圧電送線を動かしたりすることはできないし、引越しも簡単にはできない。小児白血病との関係はかなりはっきりわかっているのだから、少なくとも乳幼児は高圧送電線の近くで生活させるべきではないだろう。
海外ではすでに対策をとる国が現れており、スウェーデンは93年から幼稚園や学校などのそばの送電線を撤去し始めている。アメリカでも行政の指導などに基づいて、テネシー州の電力会社が学校などから送電線を400m離すことを決めている。

OA機器

VDT(ビジュアル・ビデオ・ディスプレイ・ターミナル)労働を行っている人が白内障になった例は早くから報告されてきた。1977年、米・ニューヨークタイムズ社でVDT作業をしていた二人の若い労働者が、1年以内に初期の白内障になったが、このことについてニューヨーク州のザレー財団研究所所長ミルトン・M・ザレー博士は、「マイクロ波の被爆によって起きた可能性が大きい。レーダーもマイクロ波を使っているが、そのレーダー・オペレーターの白内障に似ている」という報告をした。また、VDT作業と異常妊娠・出産の関係も指摘する。
またOA化が進むにつれ、職場で不定愁訴症候群に似た不快感を持つ人が増えている。これは電磁波症候群ではないかと指摘する専門家もいる。ただし、パソコンに関しては、国産品も欧米の製品と同じような電磁波対策がなされているといわれる。

家庭電化製品

電気毛布を利用している婦人の尿中メラトニンが低下していることを示す報告がある。ただし、電気毛布の繰り返し利用によるヒトのメラトニン分泌への影響についての実験を行った結果、有意な影響は認められていない。
一方、最近の新しいマンションなどではキッチンに、電磁調理器具を導入した「オール電化」のシステムが用いられることが多くなっている。高層ではガスが分離してしまい、ガス調理器が使えないという事情もあるが、「火が出ないので火事の心配がない」とことさら安全性が強調されている。ところが、じつは電磁調理器は、きわめて強い磁界を作るのである。妊娠中の女性が調理台に立てば、お腹の赤ちゃんが、電磁調理器に近い位置にさらされ続けることになる。

携帯電話


2002年8月末、日本の携帯電話(PHSを含む)数は7727万台で普及率は60%を超えた。世界では2001年末に10億台を突破している。携帯電話 から出ている電磁波は、電子レンジと同じ高周波のマイクロ波といわれるものだ。電子レンジはマイクロ波による「ホットスポット効果」というものにより、食 品などを温めるが、携帯電話のマイクロ波もホットスポット効果で脳の中心を集中的に温めているのではないか、さらにこれが長く続くと脳腫瘍の原因になるの ではないかと指摘されている。

また携帯電話のマイクロ波が脳細胞のDNAを切断するという研究リポートもある。さらに脳の中央部にある松果体が磁気変化に反応し、行動と心理メカニズムに深く関連している神経ホルモンの分泌(セロトニン・メラトニン・ドーパミン)を抑制するという考え方も示されている。
97年にWHOの研究プログラムとして、携帯電話の電磁波をラットに浴びせる実験が行われた。18ヵ月後には、浴びせないラットに比べ、浴びせたラットはリンパ腫瘍が2倍に増加したという結果が出ている。
携帯電話は通話中だけでなく待機中も、位置情報を近くの中継基地局と交換するため、電磁波を出している。当然、メールを利用している時も電磁波が出ているのである。電車の車内では電磁波は一部窓から出ていくものの、多くは金属の車内壁で跳ね返ってしまう。何人もの人がスイッチを入れたまま電話を持っていれば、反射が重複して非常に強い電磁波が出力されることになる。車内の携帯電話はけっして話し声といったマナーだけの問題ではないのである。
模擬人体を使った実験や計算上では、携帯電話の電磁波では、健康に影響を与えるほどのホットスポットはできなかったとの研究結果もある。ただし、脳のしくみ自体がよくわかっていないのだから、模擬人体による実験では安全性は証明されたことにはならない。ともかく、多くの若者が携帯電話を遊び道具として使用しているような日本の現状は危険すぎる。
アメリカでは脳腫瘍の患者らが携帯電話使用による電磁波で健康被害にあったとして、日本メーカーを含む携帯電話関連企業を相手に、巨額の損害賠償を求めた集団訴訟を起こした。損害賠償額は、懲罰的賠償を含め計数十億ドル(数千億円)に上るといわれる。

医療機器

ペースメーカー医療現場には電気メス・除細動器・MRIなど電磁波を出す多種多様な診断・治療装置がある。それぞれいろいろな周波数の電磁波を利用することによって、そ の機能を果たしているのである。これらの機器はそれぞれ単体として使用されている場合は安全なように設計されているはずだが、電磁波を発生する機器がほか の電子機器の近くにあると誤作動などの障害を起こす「電磁干渉」というものが起こる恐れがある。それぞれの機器が不要電波を漏らさない、また不要電波を受 けても誤作動をしない性能が求められる。
さらに最近の携帯電話の急速な普及により、これらが医療施設内に持ち込まれることも多くなっている。
1997年6月にスウェーデンで日本製の点滴ポンプが停止する事故が起こったことから、携帯電話の電磁波を点滴ポンプのセンサーが感知し、警報ブザーが鳴ってポンプが止まることがわかった。また、心電図検査をするときに、携帯電話の電源が入っていると波形が乱れて検査にならないし、携帯電話は心臓ペースメーカーにも影響を及ぼす。このため、多くの医療機関では携帯電話のスイッチを切るよう呼びかけている。
一方、医療現場を離れても携帯電話はペースメーカーに何らかの影響を及ぼす。ただし、最近のペースメーカーはシールドが施され、影響をうけたときも正常に作動するよう設定されている。