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睡眠障害を考える – 2

睡眠時無呼吸症候群の臨床
上野睡眠クリニック・古賀達夫院長に聞く

睡眠時無呼吸症候群は最近発見された病気で、日本にはまだ専門的に診療できる施設は少ない。「上野睡眠クリニック」は、いびき・睡眠時無呼吸症の専門診療施設として、2003年12月に開院した。古賀達夫院長に睡眠時無呼吸症候群臨床の実際を聞いた。

古賀達夫 (こが・たつお)

2002年、日本大学医学部卒業。

2002~03年、日本大学医学部付属板橋病院勤務。

2003年12月、上野睡眠クリニック開院。

日本医師会会員、日本睡眠学会会員、日本内科学会会員。

運転中に繰り返されるニアミス

「初診の患者さんにアンケートを行うと、車の運転でニアミスを繰-返しているという人が少なくありません。実際交通事故などの事故を起こしてしまったという方もいます」
上野睡眠クリニックの古賀達夫院長は、こう証言する。同クリニックは「いびき・睡眠時無呼吸症の専門診療施設」を標模しているため、ほとんどの患者は「自分は睡眠時無呼吸症候群ではないか」という疑いを持って来院する。
2003年2月に発覚した山陽新幹線運転士の居眠り運転事件で、この病気がにわかに注目されるようになった。睡眠中呼吸停止が起こり、酸素の取り込みが不足する。患者本人は眠っているつもりだが、深い眠りが得られないため、昼間も眠気が強く出て集中力が低下してしまう。事件を起こした新幹線運転士は「10時間半も眠った」と言っていたのに、居眠りをしてしまった。睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状と考えられる。
危険をともなう作業を行う人や集中力を必要とする職業の人が、睡眠時無呼吸症のために、大きな問題を引き起こす例がしばしばある。1986年1月のスペースシャトル・チャレンジャー号の爆発、89年3月に大量の石油流出を起こしたタンカー・パルデス号のアラスカ沖座礁事故なども、この病気が遠因だったといわれる。

睡眠時無呼吸症は一晩(7時間)の睡眠中に10秒以上の無呼吸が30回以上起こる、または睡眠1時間あたりの無呼吸や低呼吸が5回以上起こる病気と定義さ れている。アメリカでは成人男性の4%、成人女性の2%が睡眠時無呼吸症候群であるといわれ、日本でもそのくらいの割合だとすれば、潜在患者数は 300~400万人に及ぶことになる。無呼吸が起こるメカニズムを古賀院長は次のように説明する。
「睡眠中は喉のまわりの筋肉が緩んでいて、仰向 けに寝ると舌のつけ根の部分や口蓋垂(喉ちんこ)のまわりの粘膜が奥に落ち込んで喉をふさぐような形になります。その狭くなったところを空気が無理に通ろ うとするために起こる摩擦音や振動音がいびきです。そして、完全にふさがった時、いびきも呼吸も止まります」
とくに肥満者は、喉の内側にも脂肪が つくので、空気の通り道が狭くなりやすく、口蓋垂の大きい人、首が短くてあごが小さい人、あごが奥にある人、喉が狭い人や鼻づまりのある人もリスクが高 い。また、アルコールが入っている時も喉の筋肉が緩みやすいので、無呼吸症が起こりやすい。
すぐできる睡眠時無呼吸の予防法としては、一つは喉がつまりやすい仰向けの姿勢を避けて、横向きに寝ること。また、アルコールは控えめにして、とくに寝る前の飲酒を避けるようにする。

昼間の眠気から重症度を検査

上野睡眠クリニックの受診者は、ほとんど家族など周囲からいびきや無呼吸を指摘され、「医者に行ってくれ」と要請された人だという。患者本人にも、「熟睡感がない」「昼間眠くて仕方がない」などの自覚症状がある場合は多いが、自発的に「医師に相談しよう」と考えて来院する人はほとんどいない。
「患者さんでいちばん多いのは肥満の中年男性で、高血圧を合併している例が少なくありません。糖尿病を合併している方もいます」
睡眠時無呼吸症候群は、短い酸欠状態が重なることがボディブローとなる。心臓や血管系がダメージを受けやす-、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などの重大な病気にもつながることがある。
上野睡眠クリニックでは、受診者が睡眠時無呼吸症候群であるかどうかの目安をつけるため、まず問診で「エプワース眠気尺度(Epworth Steepness Scale-ESS)」と呼ばれる世界共通のアンケート式の検査法を用いる(表1)。このアンケートは、8つの状況においてそれぞれどのくらい眠いのかを答えていき、日中の眠気(過眠症状)の重症度を判断していくものだ。

一泊入院により確定診断

シーバップをつけった状態。

ポリソムノグラフィー (PSG)

睡眠時無呼吸症候群の治療として’シーパップ(CPAP=経鼻的持続陽圧呼吸法)療法が普及してきた。鼻マスクを通して一定圧の空気を送-込むことによってふさがっている気道を広げ、いびきや睡眠時の無呼吸を防ぐ装置を利用するものだ。

シーパップ療法は有効性と安全性が確立されており、98年から保険が適用されている。保険診療のためには終夜睡眠ポリソムノグラフィー (PSG)検査により睡眠時無呼吸症候群であることを確定診断する必要がある。PSG検査は身体に様々なセンサー(脳波、眼電図’オトガイ筋電図、いびき音’呼吸フロー、胸腹部運動’心電図’動脈血中酸素飽和度、前頚骨筋筋電図、ビデオカメラ撮影)をつけて、1泊2日の入院で睡眠の状態と睡眠中の身体機能を測定するものだ。もちろんこの検査で痛みをともなったりすることはまったくない。PSG検査の結果によりシーパップ治療が適応とわかった場合、改めてシーパップをつけて1泊入院の検査を行う。それによって睡眠の状態や無呼吸の状態を確認し、その人にどのような空気圧が適当かを判定する。
なお、シーパップは原則的に在宅でのレンタル使用となる。3割負担の場合は、レンタル料・診察料含めて月5000円弱の費用がかかる。

「シーパップをつければほとんどの人は睡眠の質も改善するし、呼吸障害も改善します。ただ、違和感があってどうしても使えないという人もいます」
と古賀院長は話す。さらに問題は、シーパップ療法で睡眠時無呼吸症候群自体が治るわけではないことだ。シーパップをつけないと、たちまちいびきや無呼吸が戻ってしまう。
このほか、軽度の睡眠時無呼吸症候群の場合、マウスピースで症状の改善が得られることもある。下あごを前方に突き出させるように工夫したマウスピースをつけて寝ると、気道が広がり、いびきや無呼吸が改善するのだ。このようにマウスピースの適応があると判断される場合は、患者を専門の歯科に紹介する。
「シーパップやマウスピースはあくまでも対症療法です。睡眠時無呼吸症候群を根治するためには、肥満の人はダイエットをするなど、気道がふさがりやすい構造自体を改善しなければなりません。また、小児の睡眠時無呼吸症候群は、気道がふさがる原因がアデノイド(咽頭扁桃)や口蓋扁桃が大きすぎることが多く、この場合は手術治療により改善が見られます」