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統合リハへの提案 – 2

各分野で活躍する東京衛生学園リハビリテーション学科OBに統合リハヘの可能性を聞く

診療報酬改定で病院でのリハビリは脳血管、運動器、呼吸器、心大血管の四疾病領域だけが対象となり、リハビリ治療が受けられる日数の上限に枠がはめられた。リハビリを行う理学療法士も四大疾患それぞれへの専門性を求められるとともに、急性期、回復期、予防期という疾病の流れにトータルに関わることが困難になってきた。また介護施設でのリハビリや訪問リハビリなどリハビリの環境も急速に変化している。このような状況のなか、各リハビリ施設で活躍するOBを訪ねた。

宮下智さん (太田医療技術専門学校副校長)

各関節のつながりを意識した筋力の強化を実現する


S・E・Tを導入している介護老人保健施設

スリング・エクササイズ・セラピー(S—E—T)は、ノルウェー国内の90%の病院やクリニックに導入されている訓練法です。スリングとは、ロープを使っ て、部位や高さ、負荷を思いのままに調節することで、患者個々の体型や能力に合わせた最適な訓練環境が設定できるようにしたリハビリテーション治療機器で す。
従来のリハビリは、治療家が外から強制的に力を加えて動かす他動運動を行うことにより、ともすれば患者さんに新たな苦痛を与えたり、障害のある部分以外に も筋力強化のために負担をかけて悪影響を及ぼすことがありました。また、障害を負って間もない期間は痛みが強くて身体をかばおうとするため、訓練の開始が 遅れがちになるといった問題も生じていたのです。高齢で障害を負い、活動量の低下している患者さんに動いてもらうためには、まず体重をしっかり支えてあげ るこということが必要になってきます。
一方、現在、介護予防の世界では、筋力トレーニングということが一種のはやりになっているようです。高齢者も筋力を鍛えれば、確かに筋力強化することができるし、否定されるべきものではありません。ところが調べてみると、70代の人たちでは身体を支える腹筋や腿の前の筋肉は、若いころより四割近く落ちているというのです。そのうえに、マシンを使って何キロも動かすということになると、バランスが保たれていない各々の筋肉に大きな負荷がかかってしまい、かえって関節や筋肉に対して悪影響を及ぼすことが指摘されています。本当にそのような方法がいいのかを考える必要があるでしょう。
大切なのは、身体の動き、各関節のつながりとして筋力を考えていくことではないかと思われます。全身運動を行うときに、各筋肉のリンクがミスマッチすると動けなくなってしまうおそれも出てくるのです。よく在宅ケアの患者さんを訪問すると、握手する力はおそろしく強いのに立ったり座ったりしていられないという例に出会うことがあります。おそらくそうした筋力を発揮するタイミングのアンバランスということが影響しているのではないでしょうか。


宮下智さん

これに対して、スリングは、手足を吊ることによって重力から解放させることができます。このことで患者さんの痛みを軽減し、早期から患者さんが自ら 動くことを可能にし、筋収縮のイメージを早期に感じさせられることができるのです。理論的にはローカルマッスル(固定筋)で脊柱部分をきちんと支えること で、グローバルマッスル(運動筋)が十分に動くようになり、正確な動作につながるとされます。このような視点での治療は、従来の理学療法・作業療法の中で 欠けている部分であったといえるでしょう。
スリングを用い、重力を調整し対象者の能力に合わせた訓練・治療により、筋力強化、バランス向上などが 図られます。とくにスリングにおけるリラクゼーション肢位では、中医学でいう気の流れを考えつつ治療する新しい展開を試みています。これらの効果を応用す ることによって、肩こり、腰痛、関節の痛み、半身マヒ、さらに排尿障害に至るまで、様々な症状に対して利用することができるのです。もちろん障害者ばかり でなく高齢者の介護予防の効果もあり、健常者の健康管理、さらにはスポーツ選手のパワーアップにも役立ちます。