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患者を支えるサポートグループ

重度の病気を宣告されたり闘病する中で、家族や友人の存在がどれほど大切かが分かる。
インターネットはその心のつながりをさらに広げ、患者や家族の大きな支えになりつつある。

吉村克己 (ルポライター)

癒しと学習の場

小学館『週刊ポスト』元編集長の関根進さんは、九九年二月に悪質な進行性の食道がんと宣告されたが、入院中にたまたま持ち込んだノートパソコンによってイ ンターネット上からあらゆるがん情報を収集し、その結果、自らの判断として、手術を拒否。抗がん剤と放射性の治療は受けたものの、独自に見つけた漢方薬と 食事療法によって、いまでも元気に過ごしている。

その関根さんはがんは情報戦だという。「医者が自分から話すことは少ないが、質問すれば答える。
だから我々は自ら情報武装して的確に質問しなければなりません。医師の患者に対する説明が不足しがちで、通り一遍になればなるほど患者の情報欲は病的に膨れあがります。
がんという病気は患者が自分の疑心暗鬼と闘う蕫心理情報戦争﨟でもあるのです」と関根さんは語る。

病院という場において、医師は患者の上に立ちがちだ。本来は、医師や病院が有料で患者に医療サービスを提供しているにもかかわらず、患者は充分な情報を与えられず、疑心暗鬼の中で苦しむ。
今年五月に「子宮・卵巣がんのサポートグループ あいあい」という婦人科がんを中心とした当事者同士の分かち合いや情報交換を目的とした会を発足させた「まつばら けい」さんも情報不足に苦しんだ一人だ。
まつばらさんは自身が今年二月に子宮体がんの手術を受け、「不安な気持ちを同じような体験をした人と分かち合いたい」「医療機関や病気についての情報がほ しい」と切実に願った。

そこでサポートグループを探したが、乳がんやがん全般、婦人科良性疾患のグループはあっても、婦人科がんを対象にした会は、ほとん ど見つけることができなかった。結局、まつばらさんが入院中に婦人科がんの仲間にグループづくりのアイデアを話し、賛同者を集めて、「この指止まれ」式に 会が発足した。
10月現在で登録メンバーは500人に達している。「グループを婦人科がんに特定したのは、その情報が少ないからです。病気や治療に関する情報だけでなく、術後の生活、治療の後遺症や合併症、転移・再発に ついての情報なども不足しています。特に、婦人科がんには心身両面において特有の問題があります。たとえば、術後の排泄障害や、リンパ浮腫、性生活のこ と、女性性喪失や子どもが産めないことをどう受けとめるのかなど。

それらに取り組むため、現在、癒しと学習の二つを会の活動の柱にしています」とまつばら さんは語る。
現在、同グループでは、わかちあいのミーティングと専門家や体験者などを講師とした講演会を毎月交互に開催しており、今後はホームページのコンテンツなども充実させていく予定だという。
昨年11月に食道がんと診断された「オミノアツシ」さんもがんに関する情報不足と、医療機関に対する不信に悩まされた。「ガン病棟からの脱出」というオミノさんのホームページには、5カ所もの病院を転々とせざるを得なかったオミノさんの体験が綴られている。
当初は、オミノさんも当たり前に手術を受けるつもりだったが、がんに関する本を読み、インターネットで情報を検索し、入院患者と情報交換をするうちに、手 術の有効性に疑問を感じるようになり、ついに手術を拒否した。だが、そこからが苦闘の連続だった。オミノさんの考え方を理解して、適切な治療を施してくれ る病院と医師探しが始まったのである。

「インターネットでアメリカの医療サイトに飛び、翻訳ソフトを使ってがんの最新治療法などを勉強するうちに、日本のがん専門病院がアメリカのレベルに及ばないことが分かってきました」とオミノさん。
こうした思いをぶつけるためにホームページを開設したオミノさんだが、情報交換のために設置した掲示板を通じて、貴重な仲間を得るという大きな余禄もあっ た。ところが、いつしか掲示板にはがんに効くという漢方薬の話など宣伝まがいの投稿が増えてきて、「掲示板の閉鎖も考えている」(オミノさん)という事態 になった。
善意の衣を着て、営業している連中がいるとすれば腹立たしい限りだ。

患者や家族に不可欠の存在

がん患者やその家族は手術後も常に再発の恐怖にさらされている。その苦痛や不安感がさらに身体と心にストレスを与え、がん細胞につけ入る余地を与えてしまう。
そうした不安に打ち勝ち、良好な精神状態を保つには、多くの人と関わることが大切だ。「どんぐりの会」はあらゆるがん患者と家族・遺族にこのような場を提供する団体として、八八年に設立された。
創設者の椚総・計子夫妻は、総さんが八七年に肝臓がん手術後七カ月目にしてモンブラン登山隊に参加し、夫婦で頂上近くまで登った経験を持つ。その快挙が多くのがん患者や家族を勇気づけ、相談が寄せられるうちに、心おきなく皆が語り合える「場」の必要性を痛切に感じ、会の設立に踏み切ったという。
どんぐりの会では、月一回の定例会、年二回のレクリエーションの他、随時シンポジウムや講演会などを開いている。現在、会員数はがん患者一二一人、家族一〇人、遺族(分科会「青空の会」)九四人、協力者五六人となっている。 ホームページで訴えたいことについて、同会事務局である鈴木節子さんはこう語る。
「(がん患者や家族の方々に)シンポジウム、講演会、定例会などの行事に参加していただき、苦しいのは自分だけではない、仲間がいるという安心感、話すことにより癒されること、また人の話に耳を傾けることで自分を客観的に見つめられることなど、自助グループの大きな力を知ってほしい」
臓器移植を受ける患者や家族をサポートする国際組織TRIO(Transplant Recipients International Organization)の日本支部、トリオ・ジャパンも、また一人の患者がきっかけで設立された。胆道閉鎖症のために肝臓移植を待ちながらオーストラリアで亡くなった水谷公香ちゃんの募金残金を基金として、九一年に発足したトリオ・ジャパンは移植医療情報の収集や提供、移植希望患者および家族に対する術前・術後のサポートおよびカウンセリング、啓蒙活動などを行っている。現在の会員数は約150人。
トリオ・ジャパンの若林正さんはホームページを通じて「少しでも多くの人々に移植について知っていただくと同時に、いま移植に関することで困っている方々は私たちにアクセスしてもらいたい」と語る。
このようにサポートグループは患者や家族たちにとってもはや不可欠の存在になりつつあるが、今後、インターネットの普及とともに、患者という一部の人たちだけのものではなく、健康な人たちにとっても必要な存在になるだろう。その一つとして最後に紹介したいのが「市民の医療ネットワークさいたま」だ。このサイトでは市民が持っている医療情報を共有し、不信・不満を持った病院や医師、および信頼できる病院・医師を実名で登録できるようになっている。そのデータから「信頼できるお医者さんリスト」を発行しており、医師と患者の信頼関係づくりを目指している。こうした動きは今後ネット上でますます活発になり、それが医療を本当のサービス産業に脱皮させることになる。


子宮・卵巣がんのサポートグループあいあい
トリオ・ジャパン
市民の医療ネットワークさいたま