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不安定なこころと身体に落ち着きと安定感を取り戻す

ナツメ

女性の情緒不安、不眠、ストレスによる動悸や
胸のしめつけなどに用いられ、
子供の夜泣きや動揺にも用いられます。

林真一郎(薬剤師 グリーンフラスコ(株)代表)


ナツメはヨーロッパ東南部原産で広くアジアに分布し、自生または栽培されるクロウメモドキ科の落葉小高木です。その果実はだ円形か広卵形で外面は赤褐色であらいシワがあるかまたは暗灰赤色で細いシワがあり、いずれもツヤがあります。注意深く観察すると果実の両端はややくぼみ、一端に花柱の跡、もう一端には果柄の跡がみられます。

ナツメは我が国で最もよく知られた生薬であり、歴史的にも『神農本草経』に上品として収載され、漢方の要薬のひとつとして知られています。秋に赤く熟した果実を採取し軽く湯通しして乾燥させますが、虫害を受けやすいので保存にも注意が必要です。ナツメの名前の由来は、初夏に芽が出ることによるという説と茶の湯の道具のナツメに似ているからだという説があります。
一般に果実や根は植物が光合成で生合成した物質を貯蔵するため栄養にすぐれています。根は味が苦いものが多く、強壮効果にすぐれたものが多いのに対し、果実は甘いものや酸味のものが多く滋養に富んでいます。ナツメの果実は甘味が特徴で、成分としては果糖、ブドウ糖、ショ糖などの糖類を豊富に含み、他にトリテルペノイドやサポニン、配糖体それにビタミンB1、B2、B6、ニコチン酸、ビタミンCやカルシウム、鉄、リンなどの栄養素を含みます。
ナツメの身体を安定化させる働きについては、胃腸が弱く、トラブルをかかえがちな場合に、人参などの強壮生薬と合わせて滋養強壮の目的で服用します。虚弱で風邪を引きやすいような場合には桂枝や生姜といった芳香性生薬と合わせて服用します。食欲不振や下痢などの消化器系の不調に対しても用いられます。


次にナツメのこころを安定化させる働きについては、女性の情緒不安、それに伴う不眠、ストレスによる動悸や胸のしめつけなどに用いられ、また作用がおだや かであることから子供の夜泣きや動揺にも用いられます。さらにナツメは漢方処方で他の生薬の刺激を緩和させる目的でも甘草などとともに多用されます。
さて、ナツメが近年になり注目を集めた理由に、その水浸液にサイクリックAMPと呼ばれる物質が多量に存在することがあります。あるホルモン(たとえば副腎皮質刺激ホルモン)が、標的細胞に目的とする物質を作らせる場合には、まずホルモンが標的細胞の細胞膜受容体に結合し、さらにGTP結合タンパク質(Gタ ンパク)を介して細胞膜の内側にサイクリックAMPが合成されます。このサイクリックAMPが機能タンパク質をリン酸化して生理作用が発現するのです。し たがってサイクリックAMPはホルモンの二次メッセンジャーと呼ばれます。
生薬は物質、エネルギー、情報のさまざまなレベルで私たちのこころと身体に変化を起こすのです。

1.ナツメのハーブティー

ナツメの果実10~20個を1リットルの水につけ弱火で煎じて水の量が半分になるまで煮つめます。これを1日3回に分けて服用します。胃腸のトラブルを起こしやすい人や冬に風邪をくり返しひいてしまう人におすすめです。またナツメには利尿作用もあるので体内に水分が滞留しやすい人にも向いています。咳が止まらないときや、のどが乾くときにも効果的です。ただし、その日に作ったものはその日のうちに使い切るようにしましょう。

2.ナツメのチンキ剤(ナツメ酒)

ナツメの果実500グラムと氷砂糖200~300グラムをホワイトリカ11.8リットルに漬け込んで3ヵ月以上冷暗所に置いて製します。ナツメの果実は漬け込む際に細かく切断して成分が溶出しやすくなるように前処理を行います。漬け込み用のビンは果実を取り出しやすいように広口のビンを用います。服用量は1回10ミリリットル程度とし、就寝前に服用すると効果的です。ストレスによる精神的な苦痛や不安症状を鎮めることができます。またそのような際は消化器の働きもにぶるため、神経性の食欲不振症や消化不良、下痢などにも用いることができます。生理痛や生理前症候群で緊張が強い場合にも用います。

3.そのまま食べる方法

熟した果実はそのまま生で食べたり日干しして食べることもできます。虫がつきやすいので乾燥と保存は注意深く行います。