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鍼灸レポート

第33回現代医療鍼灸臨床研究会開催

がん緩和ケアの医療資源として鍼灸の役割を追求していこうという流れが起きている。実際に鍼灸を利用している先駆者たちの報告。

 

がん緩和ケアにおける鍼灸の役割を追求

東京大学鉄門記念講堂で「癌患者の愁訴と鍼灸治療」をテーマに現代医療鍼灸臨床研究会が開催されました。今回は基礎講座、シンポジウム、教育公園の三部で構成されており、満場の参加者の中、鍼灸ががんの緩和ケアの上で果たしうる役割について、非常に熱心に議論が交わされています。

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より早期からの治療開始でより有効

基礎講座で、埼玉医科大学医科大学東洋医学センター講師の山口智先生は、鍼灸治療が「現代医学的な知識と技術を習得することで、貴重な伝統医学でがん治療の一端を担いうる」と語りました。同センターで84名のがん患者(約半数が末期)を対象に鍼灸治療を実施したところ、64.5%が有効であるとの結果を得られたとのことです。とりわけ早期の患者ほどその有効率が高い傾向にあり、がんに対する鍼灸治療は、より早期から開始して継続することが重要との見方が示されています。そして今後は鍼灸の有用性や有効性を科学的に明らかにしていく一方で、診療所や病院などの連携を拡充していくことが期待されると話しました。

化学療法のしびれや末期の呼吸苦にも有効

シンポジウムでは、筑波技術大学保健科学部の津嘉山洋先生が、文献調査とアンケートから鍼灸における臨床データを分析した結果を報告しました。鍼灸の適用となる症状として、疼痛、吐気・嘔吐、食欲不振、化学療法の副作用、浮腫・麻痺や知覚障害、排便などが挙げられたと報告しています。
埼玉医科大学医科大学東洋医学センターの小内愛氏が、同センターでの経験から、鍼灸治療ががん患者に対する西洋医学的な治療による副作用や合併症の症状緩和に有用であることが示されたと報告しました。特にがん患者特有の多彩な愁訴を軽減し、QOLの向上にも寄与する可能性が示されています。
前国立がんセンター緩和ケア科鍼灸師の鈴木春子先生は、がん患者に対する治療の経験を話しました。鍼灸はモルヒネが効きにくい痛みに有用であり、また多くの終末期患者が悩まされる呼吸苦に対しても役立つ可能性があるとしています。センターに17年間勤務した鈴木先生はこの度退職し、東日本大震災の被災者の救援ボランティア活動に参加しておられ、「緩和ケアの新しい境地を開拓していきたい」と述べました。
明治国際医療大学臨床鍼灸教室の福田文彦先生は、がん化学療法に伴う末梢神経障害に対する鍼灸の有用性を報告しました。乳がんなどに頻用されるパクリタキセルがもたらすしびれの副作用に対して、より早期の段階で鍼治療を導入することで症状の悪化を予防する可能性を示しています。

難治の神経障害性疼痛にも期待できる効果

東京医科大学茨城医療センター緩和医療科部長の下山直人氏は、「癌患者の対応と治療」をテーマに教育講演を行いました。がん患者は、「身体的痛み」、「精神的な痛み」、「社会的な痛み」、「スピリチュアルペイン」の4つの痛みに苦しむといわれ、現代西洋医学だけでは痛みの治療が困難であると話しています。医用麻薬(オピオイド)は、身体的な痛みの中でも神経障害性疼痛といわれる痛みや筋肉痛には無力であり、また一方で難治性便秘などの副作用をもたらします。これらの場面において、鍼灸が果たすことのできる役割は小さくないだろうとの期待が示されました。(4月29日)
次回第34回現代鍼灸医療臨床研究会は、11月3日(木・祝)に「診療各科における肩こりの病態と鍼灸治療」をテーマに開催されます。

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埼玉医科大学医科大学東洋医学センター講師山口智先生(右)を座長に活発に鍼灸とがん緩和ケアの実際と未来が各シンポジストと共に語られた。