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あなどってはいけない更年期障害

更年期障害というと、中年女性の通り道で、
ちょっと我慢すれば大丈夫と考える人も少なくないだろう。
だが、更年期障害は高脂血症や脳の老化現象とも関係し、
高齢女性の深刻な病気にもつながっていることが明らかになってきた。

吉村克己(ルポライター)

 

ある日、脳が壊れた

サンフランシスコ在住のヨシコ・マクファーランドさんは55歳のある日、何の前触れもなく無性に悲しくなって、涙がぼろぼろ流れ始めた。仕事がまったく手につかない。ソファーに倒れ込んだが、頭の中は地震でひっくり返った本棚のように混乱している。
口は渇き、食欲はわかなかったが、何かを食べようと足を引きずり冷蔵庫にたどり着いた。だが、取っ手をつかんだ瞬間、食べ物のイメージがヨシコさんを襲い、拒絶反応に見舞われ、また涙が出た。
原因がまったく分からず、「脳が壊れた」と思ったヨシコさんがそれを更年期障害と気づいたのは3日後だった。
それまで日本にいる同年代の友人たちが更年期障害で悩んでいると聞いてもヨシコさんには他人事だった。自分は更年期障害の苦しみから免除されたと勝手に思い込み、「自分にとって更年期がどんな意味を持つものなのか、関心を寄せようともしていなかった」という。その後、本やインターネットや友人から更年期のことを学び、どんな女性にも起こる「ノーマルな現象」であることを知って一安心した。
ヨシコさんはろうけつ染めの壁掛けやふすま絵、壁画などの制作をする一方、縄文文化の研究や、視覚的な記号を言語化した壮大な「地球語」作りに取り組んでいる。更年期障害で崩れた心と身体のバランスを取り戻すために、ヨシコさんは書や体操、即興ダンスなど身体を動かすことを心がけた。その結果、約2ヵ月で回復。いまでは当時の苦しさを忘れるほど元気だという。
京都在住の会社員pu-koさんも40代半ばで突然、生理不順になり、更年期障害に関するホームページをいろいろと調べた。しかし本音で女性たちの声を聞けるサイトがないことに気づき、自ら「更年期の応援歌」というサイトを立ち上げた。
ここには女性たちの体験談(女の広場)が豊富に掲載されており、不安を抱えた人たちに役立つ。そのほか、アロマや花のセラピーなどの情報も満載だ。
pu-koさんはこう語る。
「(サイトを立ち上げた)初期の頃は勇気あるページを作ってくれてありがとうというメールが相当あり、びっくりしました。サイトを訪れる人は『みんなの声を聞いてちょっと安心した』といってくれる人が多いのですが、中には更年期障害という言葉に隠れてがんや子宮内膜症などの危険性もあるという指摘を受けたこともあり、いくら個人ページといえども、そういった点には気をつけるようにしています」

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脳の機能低下も引き起こす

pu-koさんのいうように、更年期障害という病気はさまざまな「顔」を持っている。単なる体調不良や気分の落ち込みだけではすまず、人によっては深刻なうつ状態や新たな病気の引き金になることもある。
東京都文京区にある高橋ウィメンズクリニックの高橋守院長が開設した「蕫更年期﨟ホームページ」は、更年期障害に関する基礎知識が得られるだけでなく、その本当の恐さを教えてくれる。
同サイトから目次フレームの表示・非表示を選択すると、更年期の問題を分かりやすく解説したページが現れる。メニューの中の「蕫更年期障害﨟って何でしょう?」を見ると、更年期障害には4つの症状があることが分かる。
まずはよくいわれるような頭痛、めまい、しびれ、不眠など「不定愁訴」と呼ばれる症状。次に骨粗鬆症、高脂血症(動脈硬化や高血圧などの原因となる)、そして驚くのは脳の機能低下である。いずれも卵巣そのものの機能が落ち込むことで、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が不足し、こうした症状をもたらす。
このエストロゲンの不足がアルツハイマー病発症の一つの引き金にると考えられており、統計上、女性は男性の約1.7~3倍もアルツハイマー型痴呆症にかかりやすいという。また、更年期と時を同じくして40~50歳代で女性の記憶力が急激に低下するという調査もある。更年期障害は脳に対して大きな影響を与えていることは間違いない。

高橋院長はこう語る。
「更年期障害には『女性ホルモンの永久的欠乏』と『環境因子』、『個人の気質』の3つの要素があると思いますが、その全てに関して曖昧な情報や知識に多くの方が振り回されているように思います。更年期障害を乗り切るためには、冷静にこれらの要素を分析し、一つずつ解決あるいは改善を図る必要があるはずです。医療上の治療が必要な場合、ホルモン補充療法(HRT)は婦人科、その他は心療内科や精神科が診療の中心になると思いますが、残念ながらこれらは共に一般の方が受療するには敷き居の高い科であるのも事実で、それゆえに曖昧な情報に基づいて多くの方々が苦しんでおられると思います。自分の状態を改善するために、必要があれば明確な目的意識を持って躊躇することなく適切な治療を受けていただければ、と思っています」
HRT(Hormone Replacement Therapy)とは不足する女性ホルモンを外部から補充する療法であり、すでに一般的治療法として確立されている。アルツハイマー病に対する予防効果も報告されており、発症危険率を31~67パーセント減らすといわれている。
大阪市中央区にある三宅婦人科内科医院の三宅侃院長も「患者さんには女性ホルモンについての正しい知識を持つと同時に、女性ホルモンの重要性を認識していただき、女性ホルモン剤の正しい使用で女性が『いつまでもより女性らしく、美しく、健康で』いられることを願っています」と語る。
同医院のホームページには、更年期障害のインターネット診断や、Q&A、また三宅院長によるメール相談室と共に、HRTについての情報も掲載されている。HRTに関心や疑問のある人は、メールで相談を寄せてみてはいかがだろうか。

さて、最後に触れておきたいのが男性の更年期障害だ。これまで女性固有の病気と思われていたが、最近、男性における更年期障害も指摘されるようになった。症状としては不定愁訴や無気力、不安、抑鬱状態、そして特徴的なのは性機能低下であり、悪化するとED(勃起障害)に進行する。
福島県耶麻郡塩川町にある山内薬品は、「薬雑学」というホームページを開いているが、その中で「男性の更年期障害」についての情報とチェックシートを掲載している。これによれば、男性も加齢によって男性ホルモンのテストステロンの分泌量が低下し、更年期障害を起こすという。その症状では、とくに不定愁訴が多い。

山内薬品の薬剤師である、山内真由美さんはこう語る。
「男性における更年期障害に対する認識はまだ浅く、何人かの患者さんに私の方からアドバイスをしたことがあります。すると、皆様大変驚かれますが、ご自分 で納得すれば、治療に専念できるようです。また他人である私に話すことで少し心の負担が軽くなるようです。患者さんにとってはドクターにいえないことが、 私のような薬剤師にはいえることもあるようで、それが薬剤師の使命ではないかと思っています」
更年期は男女ともに体質が大きく変わる節目だ。侮らずに専門医の相談をすぐ受けるようにするべきだろう。

各ホームページのURL