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ストレスを考える – 2

自分への気づきから始まる「心の風邪」対策

ストレスは「心の風邪」、引きそうになったらすぐに適切な対策が必要だ。そのためには自分に気づいて「心の免疫力」を高めること。そこで、ストレス適応力やストレスの身体への反応をチェックする「総合健康調査票(WAC)」が大きな力を発揮しそうだ。

ながた・かつたろう

慶應義塾大学経済学部を中退し、福島県立医科大学入学。一九七七年卒業後、千葉大学第一内科で研修。
八〇年北九州市立小倉病院に勤務、池見酉次郎氏に師事。東邦大学大橋病院助手を経て現職。

心の健康状態は、自分も周囲も気づきにくい

心の世界は身体の症状のように見えにくいため、様々な心理テストやストレスチェック票が開発されている。たとえば、精神分析の現代版といわれる交流分析(TA)や性格を判定するYG、第二次世界大戦中にコーネル大学で開発されたCMIなどが有名だ。
しかし、多くのチェック票は性格や精神疾患を判断するためのももであり、心身の健康を総合的にチェックするものは少ない。そうしたなか、東京大学や九州大学の心療内科や臨床心理士たちがチームを組んで開発したのが総合健康調査票WAC(Wellness Assistance Chart)である。全質問は約200問で構成され、「個々人のストレスの度合い」「ライフスタイルや性格などの個人要因」「ストレスによる心身への影響度」の3つ視点から健康を維持増進していくためのアドバイスを行う。
現在、WACの開発を行っている小西喜朗氏(ウェルリンク株式会社取締役開発部長)にこの健康調査票の開発の意味を語ってもらった。
「心の健康、そして身体の健康にとっていちばん大切なのは自分自身の状態に気づくことです。ところが自分のストレス状態や心身への影響には気づきにくいのです。WACでは、こうした気づきへのサポートを行います」。
確かに、心の病気のいちばんの特徴は、身体の病気に比べて見えにくいことである。
身体が熱っぽくなったり、咳が出ると、もしかしたら風邪かもしれないと思う。そんなとき、あまり無理せずに外出は控えよう、早く家に帰って暖かくして寝ようと思うものだ。あるいは風邪薬を早めに飲む人もいるだろう。
顔が赤くなっていたり、咳やくしゃみをしていると、周囲の人たちも「風邪をひいたんじゃないの」と気がつき、「早く帰ったほうがいいよ」といってもくれるだろう。病気のサインが目に見えて、なおかつ対応策もわかっているからこそ、さらに悪化してしまうのを予防することができる。ところが、「心の風邪」は、症状への自覚、対象の方法、いずれについてもわかりにくく、知らないうちに深刻な状態になってしまうことも多いという。
「ストレスの度合いについては、職場環境、仕事量・内容、家庭環境の3つから判定しています。この3つすべてが高い場合は、とくに心身への影響が大きく出てきます」(小西氏)
多くの場合、自分が受けているストレスがどのぐらい高いのか低いのかわからない。それを問診票で明らかにする。

自分に気づくことで「心の免疫力」を高める

ストレス対策として次に大切になるのは、「ライフスタイルを充実させ心の免疫力を高めておくこと」だという。「心の免疫力」を高めることは精神の状態ばかりか、身体の健康にも密接にかかわってくる。いわゆる心身症がその典型であり、心だけの問題にはとどまらない。トータルな健康を維持増進するためにも、「心の免疫力」はとても大切になる。
「心理的ストレスを受けることで、行動や心身に影響が出てくるのですが、ここには個人差があります。性格やライフスタイルによって、心身への影響はずいぶん異なってくるのです。」
WACでは個々人の人格要因(行動パターン)として、「攻撃性傾向」「自己抑制傾向」「完全主義傾向」「非解放性傾向」の四種類をみており、これらの項目が高ければ高いほどストレスの影響を受けやすくなるという。
「たとえば、競争に勝ちたいという思い(攻撃性)が強く、物事を完全に成功させたい(完全主義)といつも考えていて、上司から難しい要求が突きつけられても自分の気持ちを抑えて(自己抑制)達成しようとする。また、たまには遊ぶといった解放性もないという人がいたなら、会社には都合がよいかもしれませんが、心理的に追い込まれてしまいます。しかし、すべて低ければよいわけでもありません。おそらく四つの傾向がすべてない人がいたら社会人としてやっていくのは難しいでしょう。ポイントは自分自身を知ることです。たとえば、あまりに几帳面でなおかつ自分を抑えるタイプの人は、少しぐらいのいい加減さをもって対処したり、自分に適したリラクセーション法を持つことが必要なのです。すべての項目が高い場合は、どこかで調整しないと、心が疲れてしまいます。」
つまり、自分がどういう行動パターンをもっているかに「気づく」ことが、ストレス対策の第一歩になるという。「自分はずいぶん完全主義なタイプだと気づくだけで、他者に対しても寛容になれるでしょうし、軋轢も少なくなってくるんですね」。
また、ライフスタイル面では「食生活習慣」「運動習慣」「ソーシャルサポート(相談相手の多少など)」「仕事以外の生活の広がり」の四項目をチェックしている。
「ストレスの影響をいちばん受けやすいのは食事です。仕事や家庭のストレスが高い人ほど食生活習慣も乱れています。逆に食事をしっかりとることがストレス対策にもなります。困ったときに本音で相談できる人がいるかどうかもとても大切です。また、仕事一辺倒の人が仕事上の壁に突きあたると逃げ場がありません。たとえば釣り仲間がいるなど、趣味を通じた人間関係が充実していると、それが心の清涼剤になるでしょう。」

自分なりのストレス対策が大切

風邪をひかないように注意していても、毎日の生活のなかで、ひいてしまうこともある。ストレスも同じで、ついつい溜めてしまうことがあるので、早く気づいて、軽いうちに解消したい。
「ストレス反応として、行動反応と身体反応、心理反応の3種類があります。飲酒や喫煙が増えたり、行動に余裕がなくなるといった行動反応が出てくる一方、そうした状況が続くと、心理面や身体面にも影響が出てきます」
こうした反応が強くなる前、風邪のひきはじめに自分だったらどうするかといった対策があるのと同じように、自分なりのストレス解消法を持つことが大切になる。
「気持ちが疲れたなと思ったとき、すぐにできる身近なストレス解消を持つのがいちばんでしょう。たとえば、気のあった仲間とおしゃべりをする、カラオケを楽しむ、公園を散歩する、お風呂にゆっくり入る、好きな音楽を聴く、映画を見る、疲れたなと思ったら軽く体操をする、植木や盆栽を楽しむなど、いろいろあるでしょう」
「しかし、少しでも不安に思ったときは、早めに専門家に相談することも大切ですから、WACを受けた方には無料の電話相談を設けており専門家を紹介しています。もちろん、専門医にかかる前に予防できるのがベスト。自分なりのストレス対策をもち、日頃から心の免疫力を高めていただきたいと思っています」
大切なのは自分で気づいて、自分で未然に解消できることであり、それをサポートするのがWACだという。