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看護の日レポート

第20回「看護の日」記念行事

-第二回「忘れられない看護エピソード」をテーマにして。

 5月12日は「看護の日」。今年は制定20周年を向かえ、第2回看護に関係するテーマ「忘れられない看護エピソード」を募集したところ看護職と一般から2952点の作品がよせられた。

 前回より、審査に当たっている脚本家の内舘牧子さんは応募数の多さに、看護に対する関心の高さを感じたという。自らも闘病生活を経験し、医学に於ける看護の大切さを力説し、今回の作品群の質の高さを讃えた。また俳優の森本レオさんが会場の日本看護協会で受賞作品を朗読した。

 

看護において、患者さんやその家族との気持ちを伝え合うということの大切さ、通じ合った瞬間の喜びを綴った埼玉県在住の佐々木敦子さんの作品「伝わる瞬間」が最優秀賞に選ばれました。


「伝わる瞬間」ー全文掲載ー

 私は結婚を機に、一時看護から離れ、海外で出産、子育てをしました。 子連れで帰国し成田に着いてほっとした時、抱っこしていた息子が私の髪 の毛をひっぱり髪飾りが目の前にぶら下がってきました。その時、看護師 になって一年目のあの出来事を思い出しました。

 今から二〇数年前、神経内科病棟で担当したALS(筋萎縮性惻索硬化症) のAさんは話すことも動くこともできません。朝のケアを始めた時、わずか に残されたまぶたと頬の動きで私に『何か』を伝えようとしています。 隣にいた奥さまも文字盤で私との「通訳」を試みます。「み」「ぎ」「へ」 「や」?「部屋?」「自分の右?」「向かって右?」奥さまもいつもとは違 う内容にいら立ち「もうわかんないっ!」  いつも穏やかで、根気よく何事も教えて下さるAさんは「もういい!」 奥さまも「やっぱりはっきりいってよ!わかんないと気持ち悪い!」つい に文字盤を挟んで夫婦げんかとなり、いつもは紳士のAさんも穏やかな顔 が消え、イライラの怒り顔に。最後は涙まで流れてきました。

 私のせいで・・・。私に伝えたいことがあるのに・・・。  その時です。目の前にビョ〜ンとヘアピンがぶら下がってきました。  「もしかして、ナースキャップの右のヘアピンが落ちそうだって教えてく れていたのですか?」  Aさんは大きくまばたき「うん!」  この瞬間、みんな大爆笑。私もAさんもくしゃくしゃの顔で一緒に泣き笑 いでした。「伝えたいことが伝わらない」って、こんなに苦しくって悔しく って悲しいんだ。「伝えたいことが伝わる」って、こんなにうれしくって、 大事なことなんだと心から感じた瞬間でした。

海外に行き、言葉が通じない経験をしてあらためてそのつらさを実感し ました。病気やその障害によって、意思を伝えることが難しい患者さんが 多くいらっしゃいます。私はそのつらさ、苦しさを忘れず、そして伝えるこ と、伝わることの喜びを大切にして、今日も看護師を続けています。