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転ばぬ先の転倒予防教室

歳をとってくると足腰の衰えが始まり、骨密度も低下してくる。そのまま放っておくと、ちょっとした移動での転倒事故が多くなり、骨折などをすると寝たきりになって認知症への道筋につながりかねない。
東京衛生学園専門学校では、理学療法士、鍼灸師、健康運動指導士が各専門性を発揮ながらそれらを統合して、「ケアのいらない人づくり&やさしいケアのまちづくり」を目指し、地域住民の健康と福祉を増進させるため転倒予防教室という「場」を提供し始めてから2年目を迎える。
この教室では、西洋医学系と東洋医学系を併せ持つ東京衛生学園専門学校ならではの特徴を生かしたとてもユニークな方法がとられている。

メニューの豊富な転倒予防教室

転倒予防教室に参加する地域住民の皆さん転倒予防教室では東洋医学的な養生観を基にしている。要介護になった人たちのケアはもちろんのことだが、要介護にならないために、若いうちから、何に気を つけて正しい生活習慣を身につけるかということにも主眼が置かれている。教室で気功やツボ療法を教える鍼灸師の瀬尾港二さんは「中医学では長寿を楽しむた めには、病気にならない身体づくりが求められてきました。そのために薬膳などの食べ物に対する考え方と気功などで身心の柔軟さ(調和)を養うことが若さを 保つ秘訣とされてきた」という。
ここでは、ストレッチ運動、気功、ツボ療法、ボール運動、ゴムバンド運動、健康茶、薬膳などの東西医療メニューが上手にコースの中に組み込まれている。
初回は、脚力の測定、腕力の測定、歩行測定、柔軟性の測定を行って、参加者自身の身体機能をまず科学的に認識してもらうことから始まる。次に宅野栄子さんが健康運動指導士の立場からスポーツストレッチを指導し、十分に身体をほぐしてから次のプログラムへと進む。ここから東洋医学の養生法である気功やつぼ療法が瀬尾さんの指導で始まる。「気功は調身、調息、調心を得るものですが、これは身体のバランス整え、呼吸を整え、心をリラックスさせるためのもので、気の流れを整える体操と考えると分かりやすいと思います。またつぼ療法は、2組で行うことで、相手の身体のこわ張りや自分のこわ張りをお互いに自覚し合うことで身体の変調に気づくことにもなります」。
気功が終わると薬茶が用意され、参加者と指導員の間で茶話会が行われる。ひと息つくと理学療法士の森島健さん、西田恭子さんらのボールやゴムバンドを使用した運動が開始される。これらは転ばない身体づくりのため、理学療法に基づいて筋力、柔軟性、バランスの3つの要素から構成されているものだ。

ジャンケンを楽しみながら自然とストレッチ運動へ
運動メニューの前後に腕の伸びや脚力の測定をして変化を見る
中医学の養生の話を聞く
薬茶で水分補給しながら会話を楽しむ

異分野同士の話し合いから

習っているうちに心地よくなってくると参加者に好評のツボ療法「転倒防止教室の1回のコースの中に多種多彩なメニューがこのように組み込まれているのは、他にあまり例がないと思います。最初は西洋医学系と東洋医学系 を分けて行っていましたが、2年間の経験を通じて、両分野とも参加者を飽きさせないで継続させるにはどうすればいいかと悩んでいることに気づき、一緒に行 うようになったわけです」(森島)
当初、異なる専門領域の指導者が同じテーマで一緒に参加者に指導することは、指導言語も違うため参加者に戸惑い を起こさせるのではと心配したようだ。ところが参加者は違和感を持つどころか、かえって楽しみを覚えるようになり、継続して行おうというモチベーションも 上がり始めた。
「たとえば、ささいなことかも知れませんが、参加者の運動量を考えて水分補給が必要なとき、私たち理学療法士は主に水を飲むことを勧めます。ところが東洋系では運動の途中にクコと菊が入った薬茶を勧めるわけです。そのとき、このお茶は目にとてもいいといった話をすると場が急になごむんですね。会話も弾みますし、仲間意識も芽生えるようです」(森島)
転倒防止教室を一緒にやり始めたことで、異分野だと思っていた相手のことを垣根を越えて互いに理解し合えるようになってきたという評価も出てきている。理学療法が行うボール運動にしても、各部位における筋力の動きを部分部分に分けて科学的解釈をする理学療法士の視点に加えて、東洋医学的視点で全体の動きの調和を考える評価も行い、また反対に気功の動作を理学療法の視点で評価するなど、異分野同士の話し合いが行われることで新しい関係性が生まれそうだ。
転倒教室でいま行われていることは、お金のかからない、いつでもどこででも楽しく続けられることをテーマにした「転ばぬ先の養生法」といえるものかも知れない。

動物の動きを真似た気功法。熊が立って肩を動かす動作をしているところ
ボールを手に取ったり、転がしたりすることで筋力、柔軟性、バランス感覚が養われる
 

医食同源の考え方をもつ薬膳教室。薬膳料理は中国料理のイメージが強いが和食やイタリア料理でも楽しむことができる