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東北地震被災地での医療ニーズは急性疾患よりも慢性疾患

東北地震被災地での医療ニーズ

東北地震被災地での医療ニーズは急性疾患よりも慢性疾患国境なき医師団チームの最新報告をレポート。「仙台往診クリニック」の川島孝一郎院長からのレポート。

3月14日東北地方太平洋沖地震の被災地で医療支援活動に取り組む「国境なき医師団(MSF)」チームの黒崎伸子医師により現状報告の記者会見が行われました。発展途上国の災害被災地での医療活動の経験豊富な同医師らは、この度の被災に先進国特有の問題を認めたようです。これからの災害医療の課題となりそうです。

 

黒崎医師らMSFメンバー6人は、311日の災害発生から24時間経たないうちに東京・木場のヘリポートから、宮城県角田市のヘリポートに到着、仙台市に入りしました。2004年のインドネシア・スマトラ沖地震など、発展途上国での地震・津波被災での医療支援の経験を重ねている同チームは、この度の震災で先進国ゆえの脆弱さや問題点を見たようです。

MSFメンバーが到着した時、すでに20チームのDMAT( Disaster Medical Assistance Team:災害医療の特別派遣チーム)が現地入りし、市内の病院に振り分けられました。ところが、市内に搬送されるケガ人などの救急医療の対象患者は意外と少なく、ほとんどの病院では空きベッドが見られたとのことです。

一方では、医療は手の出しようがない8000か所といわれる「陸の孤島」が生み出されていました。発展途上国では医療者が自転車やバイクで入り込める道が多くあるのに、日本では幹線道路を断たれると身動きできなくなってしまう現実があったのです。行政当局のコーディネーションのまずさから、「何かをしたい」と思って集まってきた医療者が、何もできないというジレンマもありました。

また、避難所に運びこまれた被災者の中にはすでに慢性疾患を抱えていて治療中の高齢者などが多く見られました。これらの人たちに対する投薬や酸素吸入、人工透析などの維持という医療ニーズには十分供給できていないようです。

黒崎医師はスマトラ沖地震に伴う大津波の被災地で、人々が水を怖がったり海に近付くことができない様子を見ました。9か月後に同じ現場に行くと、水辺で遊ぶ子どもたちは見ることができましたが、一瞬のうちに家族など身近な人を失った被災者は、いつまでも「助けることができなかった」という罪の意識にさいなまれ、水を怖がり続けていたそうです。東北の被災者たちにも早目に心のケアに当たるプロが介入することが必要だと言っています。

 

2011年3月20日追加

一方、被災地・仙台で在宅医療に取り組んでいる「仙台往診クリニック」の川島孝一郎院長からも、この度の災害対策における問題点が指摘されました。同院長は、「物資輸送が滞っている」指摘とし、その最も大きな原因は「自衛隊や警察が緊急車両にだけ通行を認めているせい」と指摘されています。この規制を早く緩和しないと、直接の被害を受けた周辺地域の人まで二次的被災者に舞いこまれるとしています。災害医療は今後、根本的にとらえ直していく必要がありそうです。