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在宅医療を考える – 2

在宅医療教育の充実に向けて

在宅医療へのニーズが高まるとともに、
各学科ではこれに対応した人材養成に力を入れるようになってきた。同時にこの分野では、コ・メディカルの活躍が注目されている。学園の各学科長の取り組み方針を聞いた。

徹底した演習により、「安心して任せられる人」を養成

看護学科長 山本三代子

昨年のカリキュラム変更で、社会の在宅看護ニーズの増大に応えるために、従来の基礎看護学の継続看護から在宅看護の内容を独立させ、「在宅看護論」という一つの柱を設けることができました。25単位の専門分野の中で、3単位をこの在宅看護論にあてています。
在宅看護論は、「在宅看護概論」「在宅看護援助論Ⅰ」「在宅看護援助論Ⅱ」の3部で構成しています。このうち在宅看護援助論Ⅰでは基本的な在宅看護技術を 学び、在宅看護援助論Ⅱでは演習を中心に授業を行っております。社会的に在宅で療養をされる患者さんが多くなっていますが、患者さんは「気を使わないで安 心して看護をしてもらえる人」を要望しているはずです。そこで当学科ではとくに演習に力を入れており、このことが大きな特徴となっています。

演習では訪問看護の経験のある先生方に指導をしていただき、グループに分かれてお互いに看護者と患者のモデルになる「相モデル」を設定した訓練で、実践力を養います。
患者モデルも、「脳梗塞でマヒのある人」「目の不自由な方」というふうに疾病別の役割を設定してシミュレーションを徹底するのです。在宅看護の場合、例えば洗髪をする際、病院のように用具がそろっていないため、新聞紙とビニールで工夫した「ケリーパッド」という洗髪用具の代用品を作って使用します。あくまでも在宅看護の場を想定した演習に終始します。
学生は准看護婦になるための勉強の中で洗髪や清拭など、日常生活の援助法を習ってきていますが、看護婦という責任ある立場を目指しているわけですから、演習では原理・原則を再確認し、あらゆる看護場面で応用ができることを目的としています。
もちろん臨地実習(2単位)では、訪問看護ステーションや在宅での入浴サービスの実習を取り入れています。卒後すぐに在宅看護の仕事をしたいという学生の希望もあり、すでにそれだけの臨床経験の豊富な人も在籍しています。

一方、基礎看護学の看護学概論では、チーム医療について学び、他の医療分野の人たちと連携してどういう在宅医療サービスが提供できるかといったことを勉強します。また、臨床看護総論の講義では、4回ほどリハビリテーション学科の教員と連携してリハビリテーション看護について授業を行っています。
学園にある在宅ケアの実習室には、玄関を作ってあり、訪問先に一歩踏み入るところから学べるようになっています。在宅でケアを受ける患者さんは、安心して家へ迎え入れ、まかせられるような看護婦を求めているのですから、患者さんの家を訪れる時も、一般的な礼儀作法を知らないと困ります。看護技術ばかりではなく、そうした基本的な生活態度を身につけた上に訪問看護が成り立つと考え、指導に力を注いでいます。

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患者さんを主体にして「選んでもらう」という考え方を

リハビリテーション学科長 矢野幸彦
今度の当学科のカリキュラム改定では、Ⅱ部の夜間学生を超高齢社会に向けての在宅療法をケアする人材を育成するための教育機関として設定しました。一方、 Ⅰ部に関しては病院などでの純然たる医療、あるいは医療と福祉の中間的なことをこなす人材養成の機関として色分けを強調していこうと考えています。

それでは何が地域の在宅リハビリと病院でのリハビリの違いかということになります。スポーツ障害などで病院にいる急性期から亜急性期にかけての患 者さんに対して、PTは、「こういう技術を使ったら、こういうふうに改善するのではないか」、あるいは「こうしたらもっと歩き方がよくなるのではないか」 と考えながら働きかけます。ところが、慢性期の患者さんや在宅療養の患者さんということになると、仮に同じ障害の程度を持たれていたとしても必ずしもその ようには考えません。こちらが「もう少しリハビリをやれば歩けるのに」と考えるようなケースでも、患者さんは「家にいるのだから這ってでも十分生活でき る」と考えたり、「リハビリにエネルギーを使うくらいなら、自分はインターネットを使っていろいろな人とコミュニケーションをとれるようにしたい」などと 考えたりするケースが出てきます。

 

ですから、在宅医療を行うPTは、患者さんやそのご家族が実際に何を望んでいて、何をしてあげることができるのかをきちんと総合的に判断できる能力が必要です。そして、実際に治療にあたるためには、相当に水準の高い能力が要求されるのではないかと思います。患者さんの希望に対して、可能な限りコミュニケーションをとり、患者さんとPTが相互合意のもとで治療にあたるといったカウンセリング能力のようなものも必要だし、いわゆる法律とか社会制度をうまく利用することも必要です。幅広い知識、技術と人間性が要求されるし、はっきりとした「リハビリテーション・マインド」を持たないと行き詰まることになると思います。

日本の老年医療の中でのリハビリでは、ドクターも看護婦もPTもどちらかというと自己満足的に、機能回復を求めがちですが、「少しよくなってきた」という状況があっても、患者さん個人が「では、これから何をしよう」、「どう生活していこう」といった悩みが大きくなってしまいがちです。これは、まだ患者さんや障害を持った人が「来ていただいてありがとう」というすべてを任せる立場だからだと思います。あくまでも主体は患者さんであり、PTは何ができるかということを提示して、その中から選んでもらうという考え方ができるようにならなければなりません。

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東洋医学の優位性を発揮できる分野としてニーズに積極対応

東洋医療総合医療学科長 田山盛二
在宅医療のニーズが増大する時代に対応して、当学科では従来3年時に15時間の「在宅ケア」として行っていた授業を、「地域医療学」と改めて今後30時間 に増やす予定で、カリキュラムの充実をはかることにしました。なかでも最も重要視しているのは、高齢化社会が進む中で、老人医療や在宅医療をどのように取 り入れていくかということです。

現在、老人保険の負担が増大し、国の財政がパンクするといわれているのに対し、鍼灸やマッサージを行い、寝たきりの老人を作らないようにすることはもとより、在宅医療に導入するということになれば、医療費の削減に貢献できると考えられます。
在宅で療養するお年寄りの最大の悩みは、何といっても痛みです。東洋医療の分野がお年寄りに訪問診療を行うとなれば、鍼は褥瘡に大変効果があるし、腰痛、肩こりも和らげることができます。
また東洋医療は身体全体を診る医療なので、患者さんの愁訴に耳を傾け、それに対してもアプローチすることにより、その満足度ははるかに大きくなるはずです。
さらに東洋医療は、老年医療の分野に長い臨床経験を持っており、老人特有の疾患についても改善させる可能性を持っています。

例えば老年期に多く見られる変形性膝関節症になると、「痛いなら運動するな」といわれがちで、結果的に寝たきりになる危険性も高くなりますが、鍼灸やマッサージならトレーニングの処方もできるわけです。これにより運動するエネルギーを引き出し、改善する可能性が生まれてきます。また、神経因性膀胱や不眠なども東洋医療のアプローチが有効性を発揮することが少なくありません。
このように東洋医療による在宅医療は、老年医学に対して様々な優位性を活用できるわけです。鍼灸やマッサージによる在宅の治療は、基本的には患者さんのベッド、すなわちその人の持っている「場」でできるという特異性もあります。

現在の医療は病院など医療施設の中で行われるのに対して、東洋医療はもともと訪問医療を主体にしてきた長い歴史があり、患者さんの待つ家に出かけて治療してきたという伝統を持っているわけです。そして、今後はその伝統に培われた臨床経験を基に新しい訪問医療のニーズに応えていくことが求められているのです。

「ほうれんそう(報告+連絡+相談)」を背景に、百人百様のアプローチを

総合ケア学科長 渡辺明春
利用者さんの”城“である家庭で行われる在宅の現場では、治療的アプローチのみなら ず、もっと生活全般を支えていく必要があります。ホームヘルパーは、医療スタッフと十分連携をとりながら、その人の歴史、家族、生活に基づき、もっともふ さわしい日常生活をケアしていくことが仕事です。
当学科では、カリキュラムに看護やリハビリテーションの概論を取り入れています。しかしこれは治 療の知識を身につけるためのものではありません。利用者さんが脱水症状に陥った時、水をあげればすむのか、点滴などの処置を必要としているのか、さらに発 熱した時は原因が何なのかを判断して、医療スタッフに連絡するために勉強をしているわけです。またベッドで体位交換を行う時なども、無理なくスムーズに行 うために、リハビリテーションで学ぶボディメカニクスが役立ちます。

 

関連職種との連携をはかるためにはしっかりした判断(アセスメント)が重視されます。そのためには「ほうれんそう(報告+連絡+相談)」を絶えず念頭においています。すなわち利用者の状況を適確に判断し「報告」を行い、関係者に「連絡」をし、「相談」して決めるということです。
ホームヘルパーの役割は、むしろ利用者さんが医療に罹らないですむように、例えば脱水状態や便秘に陥らないように、普段の食生活などをチェックしたりすることです。閉じこもりや運動不足を改善したり、どんな食材をどう食べればいいかといったことを提案して生活をフォローしていきます。当学科では、利用者さんやご家族から求められることに応えるばかりでなく、専門職としてしっかりした奥行きのある対応ができるホームヘルパーを育成したいと考えています。

一般家庭へ入り込んで仕事をするという観点からは、人間同士のコミュニケーションの技術が大切になります。総合医療ケア学科ではソーシャルワーカーに心理学やグループワークを学ぶ授業も取り入れています。家を訪問した時、中が散らかっていたとしても、ただちに片付けてしまっていいかどうかは問題です。利用者さんにとってはそのほうが落ち着きを感じるのかもしれません。本当に何を求めているのかを十分知ろうとする努力を常に欠かさないことが大切です。お年寄りだからといって演歌が好きとは限らず、クラシックの大ファンもいます。病院の中では画一的な管理をすることが当然のように行われていますが、在宅の現場では百人いれば百通りのケアをするとことが大前提となります。

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